○アジアの岸辺を読む

bqsfgame2009-06-17

トマス・ディッシュ追悼第二弾。
ディッシュの知的でクールで意地悪なところが随所に感じられる短編集。
それはそれでディッシュらしさの表れた良い作品集だと思うのだが、なにせ「歌の翼に」の明るく力強いメッセージの後で読むには分が悪い。
「降りる」延々と無限にエスカレーターを降りていくだけの話し。
「リスの檻」はカフカの不条理小説に連なるNWを代表すると言われる短編だが、改めて読んで見て、そういう講釈が付いていなければ特にどうということはない作品なのではないかと思ったりもする。
カサブランカ」は、矢野徹の「地球0年」を思わせる核戦争後の価値観変容譚。この辺りはディッシュの意地の悪さが強く感じられる。
「アジアの岸辺」は、表題作で、イスタンブールを舞台にした変身譚。正直に言うが、どこが面白いのか良くわからなかった‥(^_^;
「犯ルの惑星」は、スピンラッドの「はざまの世界」を連想させた。SEXを軸に据えた異形の未来SFだが、これはなかなか面白い見物になっている。
「本を読んだ男」は、未来社会において、読書も執筆も政府による体系的な保護なくしては文化として存続しえなくなった状況を描く物語。これも非常にシニカルでディッシュらしい。最近の詐欺蔓延社会を彷彿とさせるところもある。