☆歌の翼にを読む

bqsfgame2009-06-09

30年ぶりの再読になる。
トマス・ディッシュ追悼という意味で発掘してきた。
個人的にはディッシュの最高傑作だと思う。
実物を読まれた方には説明の必要はないと思うが、タイトルそのままに音楽を通じて飛翔する‥というただそれだけを追及する主人公の成長譚だ。
しかし、努力にも関わらず才能の不足で飛翔は容易に叶わず、逆に皮肉にも最愛の妻に先に飛翔されてしまう。陰鬱な未来都市ニューヨークでの隠遁生活の気の滅入る描写はディッシュらしい。ところが、それにも関わらず本書はどこまでも明るく、最後まで飛翔することを諦めず、ついには願いを果たすエンディングを迎える。
その意味でディッシュには珍しい底抜けの希望の書とも言える内容になっている。
SFらしさと言うのは、個人的にはあまり感じないので、解説の内容には賛同しがたい。本書の素晴らしいところは、陰鬱な時代を乗り越え希望を果たす主人公のひたむきさに尽きるのではないかと思う。
とかくニューウェーブ運動は手法論的な部分に傾倒しすぎて、物語としての魅力を欠くようなことことが少なくなかったと言う印象を持っている。その意味で本書は、物語としての魅力が全てを突破したかのような快心の出来栄えになっていると思う。