☆謀略熱河戦線を読む

bqsfgame2010-01-28

覇者の戦塵も5冊目。
例によって中公版の合本を読んでいる。
本作はシリーズ中、ここまででベストの出来ではないかと思う。
時間を遡って上海市街戦の続編に当るエピソードになる。
本作の白眉は、なんと言っても熱河作戦だ。昭和8年3月、まだ雪深い満州の原野を日本軍が初の装甲部隊による機動突破を仕掛ける。しかし、悪路走破性の悪い八九式軽戦車を一桁台数で編成した突破部隊は、雪と泥濘に苦しみ、陣内中尉の2トントラクターの段列によるボグ救援、交換部品輸送、修理要員支援によって、ヨレヨレで前進していく。
なかんずく後退を続けていた中国軍が突然頑強な抵抗を開始した対戦車ブービートラップでの夜戦の場面は、ASLでこんなシナリオがあったら痺れてしまうだろうというくらいの迫真ぶりだ。
本書をして戦闘シーンが地味だとする意見を見たことがあるが、確かに戦艦が撃ち合う訳でもなく、巨獣戦車が激突する訳でもない。しかし、ASLあたりをプレイすれば分かる通り、主戦兵器が全力で撃ち合うような戦闘のクライマックスは、戦闘の中でほんの数分から数十分の一瞬の出来事でしかない。戦闘のほとんどの場面は、戦力不明意図不明の敵に怯えながらの機動・進軍や、補給物資の輸送・調達などで出来上がっているというのが本当ではないだろうか。そういう意味で本書の戦闘シーンは、本シリーズのいつものことであるがリアリティに溢れている。中でも本書は、先に述べた通り日本軍初の装甲部隊先陣による機動突破であり、これを地味だと言うのは残念ながらセンスない物言いではないかと思う。
陣内中尉らの活躍により熱河戦線は、予定通り(?)に熱河省の確保で終了し、長城線の突破には至らずに終ることになる。これにより満州事変から全面的な日中戦争への移行は史実より先送りされることとなった。
これで得られた満州内政充実の時間に、新造トラクター群が本来任務である開拓支援に振り向けられるのだろうか? そこらへんは、次の黒竜江陸戦隊を待つことになる。しかし、黒竜江は1937年と、一気に4年を飛越えることになる。この4年ものインターバルの存在は何を意味しているのだろうか?
乞うご期待!
(^_^;