中村融さんは、近年はすっかりアンソロジストとしての地位を確立したかに見える。
本書は創元推理文庫から出ている一連のテーマアンソロジーの最初のもの。ホラーSF傑作選だ。
顔触れが凄くて、ディック、ロバーツ、ゼラズニイ、ヴァンス、オールディスなど大好きな作家が並んでいる。
表題作はキャンベルの中編。南極基地と言う密室で、変身能力を持つエイリアンが誰かに変身して潜入しているという恐怖を描く。代表作「月は地獄だ!」にも似た重苦しいシチュエーションのストーリーで、テイストも非常に良く似ている。
キース・ロバーツの「ポールターのカナリア」は、期待はずれ。
ディックの「探検隊帰る」は、その名前の通りのシチュエーションを繰り返す作品で、建て付けとしては「時間飛行士に捧げる‥」と似ている。遭難した探検隊のシミュラクラたちが、そうだと言う自覚なしに帰郷を繰り返し、その度に地球人に退治されるという話し。
ゼラズニイの「吸血機伝説」は、ゼラズニイの面目躍如。遠い未来、人類滅亡の後にロボットだけが残り、その中にコントロールを外れて他のロボットのエネルギーを奪って生きる吸血機械が生まれたと言う。ゼラズニイは、新しい神話・伝説の創造者だと思うが、本作もその香りがする。
ヴァンスの「五つの月が昇るとき」は、「ソラリス」に似た作品。孤島に一人勤務する主人公に対して、五つの月が同時に昇る時期になると海から何かがやってくる。
オールディスの「唾の木」は、ウェルズへのオマージュ中編。農場へ落ちてきた隕石から透明な怪物が現れ、農場に肥料を撒いて動植物を殖やして肥えさせて食べていくという作品。寸が長い割に単調か。
ベスターの「ごきげん目盛」が収録されているのだが、筆者はこの作品の良さと言うのが今一つピンと来ない。
意外に恐いのが、クラーク・アシュトン・スミスの「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」。言って見れば「ハムナプトラ」のような話しなのだが、意外に恐い。