☆星、はるか遠くを読む

 創元SF文庫の新刊です。リアル書店で購入。

 中村融先生の宇宙探査SF傑作選。

 宇宙SFのアンソロジーと言えば、こちらが傑作でした。

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 本作は、人類が宇宙に進出した直後にターゲットを絞っています。

◎故郷への長い道

 セイバーヘーゲンの未訳で残っていた一編だそうです。セイバーヘーゲンと言えば、バーサーカーシリーズが代名詞なのですが、「バースデイ」はSF史に残る傑作中編でした(上記に収録されています)。

 本作は宇宙探鉱者が冥王星軌道を出た所で、二千年前に太陽系を出た所で遭難した過去の帝国宇宙船(の一部)を発見する話しです。

 生存者などいるはずがないと思うのですが、乗り込んでみると‥という話し。

 宇宙空間を三段櫂船よろしく漕いで渡ったのは川又千秋の「亜人戦士」ですが、ここではもっと原始的な方法で宇宙を渡ります。ネタは読んでのお楽しみ。

 「バースデー」もそうですが、SFでなければ提示できない極限状況での人々の営みを冷徹に描いている一作で、ちょっと掘出し物です。これがSFマガジン辺りに載らずに残っているというのは非常に不思議です。しかも本国での掲載誌が「ギャラクシー」だと言うのですから、見落とされるような発表場所ではないですし‥。

△風の民

 マリオン・ジマー・ブラッドリーです。

 彼女の独立した短編を読むのは珍しい。翻訳集成を調べてみたら、案の定、他には日本語でアクセスできるものはないようです。中村先生のアンソロジスト冥利に尽きるセレクションでしょう。

 太陽系外探査チームが最初の探査対象惑星に着いた所で、なんと主任ドクターの女性が妊娠していることが判明し、未婚の母になるという話しです。

 女性ならではの悩みを描くブラッドリーらしい短編。可視化すると竹宮恵子と言うのは、なるほどなと思います。萩尾望都というほどには重くないのですが、結構、深刻です。

〇タズー惑星の地下鉄

 異端技術部隊シリーズ中の中村氏の愛する一作。SFマガジンに1976年に掲載されたきり埋もれていたという。

 生物に敵意を持つかのような過酷な環境の惑星。しかし、そこにはかつて人類に匹敵する水準の文明があった痕跡が見つかる。そこで、稼働する運輸システムを作るという任務を受けた技術部隊は、古代文明の地下鉄を再稼働することを試みる。

△地獄の口

 「旅人の憩い」で知られるデヴィッド・マッスンの未訳作品。

 言って見れば「大地溝SF」であり、惑星の海抜を数十kmも下った谷底へと降りて行くだけの作品。そういう意味では、「この死すべき山(ゼラズニイ)」と方向が反対なだけで、割とテイストは似ている。殺伐とした描写が先行し過ぎて、ちょっと読んでいて辛い感じ。

◎異星の十字架

 ハリイ・ハリスン

 素朴に過ぎる現住民がいる植民惑星。先に到着して彼らに工学技術や宇宙論を教えた主人公。そこに、一人の伝道修道士がやってきます。

 原住民は、科学的な宇宙論と、神が世界を作ったという宗教のどちらが正しいのかと二人に詰問して来ます。

 もし宗教が正しいなら修道士は十字架にかけられても復活するはずだと言い出した原住民。

 植民地時代の伝道に対する揶揄もこめつつ、無神論の勝利を描きます。無神論側が勝利することもあり、宗教色はそれほど強くなく、楽しく読めます。ある意味で、非常にハリスンらしい。

◎鉄壁の砦

 マーガレット・セントクレア。「どこからなりとも月に一つの卵」に入っていたというので、読んだはずですが何の記憶もありません。これと言って戦闘行動のないある惑星の砦で、城壁を補修すると司令官は攻撃とみなされ敵を刺激するから余計なことはするなと言います。実際に補修部分は変質してしまい、なんらかの敵の作用が及ぼされたと見られます。

 司令官がいなくなり、自身が司令官を引き継ぐのですが、これも敵を刺激したらしく自分も変質してしまいナイフで切っても血の出ない体になってしまうという変な味の一篇です。とってもセントクレアらしい。

△ジャン・デュプレ

 ゴードン・R・ディクスン。ディクスンは、「ドルセイ」シリーズで一世を風靡しましたが、どうしたものか本邦では訳出されず、忘れた頃に一冊だけ創元から出ました。買って読んだのですが全然ピンと来なくて、実家に発掘に行っても見つからないので、評価が低くて処分してしまったようです。

p218

 作者はカナダ生まれのアメリカ人作家。タカ派と見なされるのは、辺境の地を舞台に、アメリカ西部開拓時代のフロンティア精神を体現したような人々が苦闘するさまを描いた作風が、ときに右翼的で暴力的に見えるからだろう。

 

 との扉紹介です。本作も正に異星のフロンティアで原住民の攻撃を受ける砦の絶望的な防衛戦を描いており、彼の典型的な一作と言えます。

 

〇総花的解決

 キース・ローマーです。彼の代表作であるレティーフシリーズの一作です。

 二つの強力なエイリアンの一触即発の紛争に直面した外交官(副次官補代理)とレティーフが事態の収拾を図るという短編です。

 レティーフシリーズはかなりの作品数あるのですが、どうしたものか日本では「突撃!甲虫部隊」が訳されたきり後続がありませんでした。

 筆者はローマー好きなのですが、こと「甲虫部隊」はあまり琴線に触れなかったのですが、本編はユーモアSFとして合格点です。

 現代はピースメーカーズなのだそうですが、訳題が揮っています。ただ、ネタバレなので、ちょっとどうかと思わぬでもありません。

☆表面張力

 巻末はブリッシュの最高傑作です。

 本作は連作長編化され銀背の「宇宙播種計画」として訳出もされました。

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 今回、久しぶりに読みましたが、やはりスゴイ! 中村先生が本作を再び世に送り出すために本アンソロジーを企画したというだけのことはあります。

 プランクトンサイズの人類の末裔が、淡水生息域から再び地上へと上陸する冒険譚なのですが、圧倒的な迫力です。ちょっと「宇宙の孤児」に似たテイストがあるのは、テクノロジーを喪失した孤立した人類の末裔の冒険だからでしょうか。

 ちなみに本書のタイトルとして、中村先生は「表面張力」を候補に推したそうですが、編集部に否決されたそうです。個人的には、この傑作が表題作で良かったのではないかと思います。ただ、宇宙探査SF傑作選らしくないと言われれば、その通りではあるのですが。