創元文庫SFの新刊。「2312」に続いて新刊を買ってすぐ読むことができ、ちょっと嬉しい。
中村融さんのオリジナルアンソロジーで、お題はファーストコンタクト。このネタは、以前にブログで書かれていたのだが、その時とはラインナップが大幅に変わっていて驚く。
個人的には、シュミッツとヴァンスが入っていては、買わずに図書館で待つのは在り得ない感じ。
シュミッツの「おじいちゃん」は、大型の筏のような植物系生物を水運に利用している植民惑星でのお話し。利用してはいるのだが、そのライフサイクルには不明な点も多く、トラブルに巻き込まれる。シュミッツと言うと、可愛い女の子の出てくる冒険SFのイメージが強いが、そういう系列ではなく地味な生態学SF。
ヴァンスの「海への贈り物」は、デカブラックなるアザラシの頭に10本腕のついた海洋生物が棲む鉱業資源惑星でのお話し。毒にも薬にもならないと思われたデカブラックの棲む海で、海底鉱山の甲板から触手で海に引きずり込まれる犠牲者が。
共生系の生物利用文明と言う割とハード目のアイデアで、ヴァンスらしくない部類の作品。とは言え、海が舞台になると船乗り出身のヴァンスの真骨頂も伺える。
意外な掘出物は、ポール・アンダースンの「キリエ」。
まだ、ブラックホールと言う用語がなかった時代に、シュヴァルツシルト半径の奥へと縮壞していく高質量恒星から脱出できなくなるエネルギー生物を扱っている。アンダースンって、実は凄い潜在能力を持っていたのではと時々思うことがあるのだが、これもその一つ。
ヤングの「妖精の棲む樹」は、独特のテイスト。
ゼラズニイの「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」を太公望SF、「この死すべき山」を登山SFとするなら、本作は与作(樵)SF。
300mになんなんとする植民惑星の大木を切る中編なのだが、実はこの大木は重要な役割を担っていて‥と言う生態学SF。そこに木の妖精ドライアドが出てくるのだが、このファンタジックな味付けは無用なのではないかと思う。どうもヤングの、この辺のテイストが個人的には好きになれない。
表題作はヴォクトの「黒い破壊者」。有名な「宇宙船ビーグル号の冒険」の第一部として後にリライトされたオリジナル雑誌掲載版。この「黒い破壊者」の掲載号と言うと、野田大元帥がアシモフにインタビューする時に持参したら、アシモフ御大が気付いて欣喜雀躍して歓待してくれたと言う曰くつき。この時期には、ヴォクトはハインラインと人気を二分する存在で、アシモフ御大をして大好きだったと言わせる作品だった訳だ。
長編版ではビーグル号の科学者集団の設定が変わっているので、人間側の対応の描写には大きな違いがあるように思う。と言っても長編版を四半世紀は読んでいないので、機会を見て読み直すか。それにしても、ダーティペアにも登場してくるケアル(クァール)はなかなかに魅力的なBEMである。これが表題作なのも頷けると言うものだ。個人的には、イクストルの方がオドロオドロシクて好きですが‥(^_^;
最後は初訳のマッケナの「狩人よ故郷へ帰れ」です。なるほど、バリバリの生態学SFで、書かれた時期を考えればフロントランナー的な存在でしょう。他の作品と比べると、少し野暮ったい感じがしますが、作者は本職はフォトグラファーと言いますし、書かれた時期を考えれば止むを得ないでしょうか。