ジャック・ヴァンス・トレジャリーの三冊目です。
表題の長編と、浅倉訳の単行本未収録中短編4本の抱き合わせです。
表題作は、彼のエースダブルの一つだそうで、軽めの長編。それにしても、サブジャンル名である「スペースオペラ」を逆手にとって本当に宇宙をオペラ巡業する話しにしてしまうのがヴァンスの人の悪い所です。
地球の素晴らしい音楽を宇宙に‥という志しは良いのですが、そう簡単に理解されるはずもなく奇矯な文化を持つ異星人たちへの興業は頓珍漢なことの連続になります。まぁ、ヴァンスらしく仕上がっています。ヴァンスとしての出来栄えは、まぁ普通です。特別に傑作と言うほどではありません。それでも、ヴァンスの長編がまた一つ日本語で読めるようになったことに価値があります。
解説にありますが、トレジャリーの第2期と言う野望もあるようです。浅倉先生が亡くなってしまったので、推進役が誰になるか次第。ヴァンスの良さを判っている翻訳家陣の目の黒い内に頑張って欲しい所です。
「新しい元首」は、銀河連邦の新元首を選ぶテストの話し。
次から次へと指導者としての資質を問われる厳しい場面を体験するカットバックが続き、実はこれはテストでしたというお話し。「スタートレック」のコバヤシマルを連想しました。
しかし、その先があって、なかなかに人の悪い展開をしていきます。ヴァンスの描く理想のリーダー像を、さりげなく主張しているのでしょうか。
「ノルンの海」は、異文化と言うより異生態生物のライフサイクルを丁寧に描いた作品。小型の水中生物を、その生物視点で描いている点で、ブリッシュの「表面張力」を連想させます。ただ、ブリッシュ作品は、どんなに異形であろうとも人間の末裔。対して、こちらは人間との関連は明示されません。
面白いことは間違いないのですが、所謂「落ちていない」作品のような気はします。
あとがきにヴァンスの海洋SFとしては、他に長編2冊が紹介されていて、読んでみたいなと思わせます。前にも書きましたが、ヴァンスの英語は手強いですかね?
「悪魔のいる惑星」は既読。
http://d.hatena.ne.jp/bqsfgame/searchdiary?word=%B0%AD%CB%E2%A4%CE%A4%A4%A4%EB
「海への贈り物」も既読。
http://d.hatena.ne.jp/bqsfgame/searchdiary?word=%B3%A4%A4%D8%A4%CE%C2%A3%A4%EA%CA%AA
とは言え、読みやすい形でヴァンス作品が集約されることには賛成。特に、ノルンとデカブラックが一緒になったのは、良いことだと思います。本当なら、これにブルーワールドをセットにして一冊にと思いますが、贅沢でしょうか。