○ミノタウロスを読む

bqsfgame2013-06-03

「バルタザールの遍歴」に続く佐藤亜紀の長編。
筆者はミノタウロス好きで、元々は迷路好きから端を発している。
迷宮に封じ込められ、生贄を取るようになり怪物化してしまった悲劇の半人半獣。
本書は内戦期のロシアを舞台にしている。
内戦が起こり、それまでの価値観が崩壊する。そして、目先の利益を求めて人々は白軍と赤軍の間を立ち回る。無節操な暴力、荒廃した性。それは、内戦と言う出口のない迷宮に閉じ込められ人間性を失っていく人々の物語となっており、作者はそれをミノタウロスに例えたのだろう。
バルタザールもそうだったが、前世紀の半ばに時代を体験したロシア人作家が物にした傑作といわれれば信じるだろう。むしろ、現代日本人女流作家の作品だと言う方が、ずっと嘘くさい。
筆力は圧倒的であり、ちょっと「百年の孤独」を思わせるところもある。
ただ、本物のミノタウロスとは全然関係なく、ファンタジー性も全然ないので○にしておいた。実力自体は小説好きの人には☆の内容だと思う。