○参謀を読む

bqsfgame2013-10-17

参謀と言っても別に軍事関係の話しではない。落合中日で投手コーチからヘッドコーチまで8年間勤め上げた森繁和コーチの本である。
巷では高木監督の後継者問題でいろんな名前が乱立しているが、その中に落合復帰の話しも出てきたので読んでみた。
筆者は与那嶺監督時代からなので、年季の入った中日ファンになる。筆者が見る限り、中日が一番うまくマネージメントされていたのは落合監督時代の8年間だったと思う。これは、ゲーム仲間で同じく長くの中日ファンであるatogさん辺りも同じ意見なので、意を強くしている。しかし、中日関係者、ファンの間でも落合監督を良くなかったとする意見も多く聞く。そこらへんは判断基準がそもそも違うのだろうなと思っている。
さて、本書だが、言っては何だが中身の薄い本である。ネットで読める森元コーチのインタビュー記事で知ることのできる内容を薄く書きのばしたような代物で、買って読むには値しないと思う。図書館で借りて読んで十分と思う。
落合中日の良かった点をキーワードにして纏めてしまうと、
目的明確、権限移譲、機密管理、練習第一、自主性重視、情報共有くらいで整理できるだろうか。そんなに特別なことをしている訳ではなく、当り前のことをきちんとできている組織であることが特筆されるくらいである。
この中では最初の3つが割と難しいかなと思う。目的明確は、落合監督が繰り返した通り監督の仕事は勝つことと割り切っていたことに尽きる。結果として、落合政権の退陣理由は観客減少だったとされるが、それは第一目的ではないと明確にしていた組織なのでそこの責任を求められるのは少し変と言えよう。そして、勝つことに関しては8年間で4回のリーグ優勝と申し分ないアウトプットを出した。
次が権限移譲だが、これは落合ほどの野球人なればこそ難しかったろうと思う。コーチを呼んで来て、それに任せ、責任だけ自分が取ると言うのは、良く組織論では聞く話だが実際には難しいと思う。
筆者も若くしてグループリーダーだのセンター長だのと言う職を与えられて困った経験がある。それまでは担当者としてバリバリ仕事をしていて、自分の仕事は細部までわかっていて、オンスケなのかどうか、オンスケでもどこかにリスクがあるのかどうか、打てる手は打ってあるのかどうか、そういうことが全部見えていた。ところが、リーダーになって部下に任せると、どうしても同じようには状況を把握できない。でも、責任は自分が取らなければならない。それは、結構なプレッシャーで、そうするとどうしても自分であっちこっち手を突っ込みたくなる。それを我慢して権限移譲するのは、言うは易く行うは難いと痛感した。
本文中に長嶋監督の例が出ていて、同監督が正にその典型で、自分ほど勝負強い打者がいないので、いくらでも良さそうな打者を補強してくる欲しい欲しい病のマネージメントをしていたと言うのだが、なるほどと思わされる。
最後の機密管理については、当り前のことなのだと思うが、それが当り前ではないのがプロ野球界の未熟な所なのだろう。そういう意味では、プロ野球の監督やコーチのマネージメントノウハウと言うのは、まだまだこれからなのだと思う。高校時代から、あるいはそれ以前から野球ばかりやっていた人物をコーチ経験もなしに監督にしてしまうような人事が横行する世界だから無理もないのかも知れないが。
ちょうど時期なので、少し書くが、本書を読むと高木中日の問題点も浮き彫りになってしまう。まず権限移譲ができなかった。権藤投手コーチとの確執はその表れだろう。また、機密管理もできなかった。その確執が表に報道されてしまうのだから。選手の自主性尊重と言う意味でも、すぐに自軍の選手の悪口を報道に乗せてしまう高木監督のマネージメントには早々に疑問を感じたものだ。少し違うが、高木監督が出て行ったブランコの悪口を言ったことが、ブランコの発奮を招いている部分も感じて、余計なことは言わなければ良いのにと思ったものだ。
次期監督と言う点でも、選手からコーチ経験なしに監督は是非避けて欲しいと思っている。そういう意味では他チームでヘッドコーチ的な仕事をした経験のある上川元ロッテコーチや、星野監督が放さないと思うが楽天の仁村チーフコーチなどが候補者に名前が挙がって良いのではないかと思う。そうでなければ、他チーム監督経験者の田尾、大島、牛島あたりとか。オーナーの覚えが良い内部昇格と言う線も出ているようだが、好き嫌いで決まるのもどうかと思う。それくらいなら経験はなくともテレビで理論的な語り口で説得力のある与田あたりの方がベターだと思う。
中期的には強い中日のキーマンだった谷繁の監督があって良いと思うが、それも出来ることならコーチを経由してからのことだろう。
などといろいろと考えたり語ったりしたくなる題材としては面白い本ではある。