☆紙の動物園を読む

bqsfgame2015-08-30

ケン・リュウの日本オリジナル短編集。ハヤカワの新銀背の一冊として出た。
テッド・チャンや、ティプトリーと比較して語られる大型新人だが、なるほどこれは評判倒れしない線の太い作品群だった。
冒頭の「紙の動物園」、「もののあはれ」は、各賞受賞作が並んでおり、独特の哀愁を帯びた物語で、小説として読み応え十分。
4番目の「結縄」が個人的にはベスト。縄の結び目を作ることで記録を残す言語をモチーフにした作品。もちろんインカのキープを連想させるのだが、それに留まらないアイデアの広がり。小説としての面白みも深い作品。
「太平洋横断海底トンネル小史」は、小史の名の通りで一種のオルタネートヒストリーもの。WW2関連のオルタネートヒストリーものはバトルオブブリテンを分岐点とするものが欧米では多いが、本作は太平洋戦争側に分岐点を設定している。その成果として太平洋横断トンネルが登場するのだが、これはなかなか面白い。
「心智五行」は、いかにも中国系の作者ならでは。腸内雑菌も人間の人格を形成する一部と言う着想。そのアイデアを読み応えのある小説にできるのがリュウの芸。これもなかなかの作品。
「文字占い師」は、二つの中国問題に関わる作品で、読んでいて非常に辛い展開の作品。後味はもちろん悪いのだが、それも小説。
訳者のお気に入りの巻末の「良い狩りを」は陰陽師ならぬ妖怪ハンターの物語だが、妖狐と心を通わせ、新しい時代にどう生き残るかと言う意外な展開をする。
全体を通して非常にレベルが高く、テッド・チャンよりずっと多作だと言うのも嬉しい。次の作品集も期待したい。
図書館で借りたのだが、これは自分で買うつもり。