☆息吹を読む

テッド・チャンの17年ぶりの第2短編集。

f:id:bqsfgame:20200707123601j:plain

17年で本一冊しか出さなくても食えるというのは羨ましいご身分です。しかし、それだけの圧倒的なクオリティではあります。

なんと言っても表題作が凄い。

読むのは三回目だと思います。差圧をエネルギー源として生きている生物が圧力平衡に達して死滅する物語。熱力学死のアナロジーであり、非常にSF的なアイデアです。しかし、それ以上に筆致が素晴らしくネタ割れで損なわれない価値があります。

「商人と錬金術師の門」は、アンソロジーに続いての再読。こちらも小説としての質感が優れていて再読でも価値が下がらない普遍的な佳作と思いました。

「オムファロス」は、SFMを買っていないので初めて読みました。化石を辿っていくと宇宙起源があって、それより前には宇宙は存在しなかったと確信される世界を描いた短編です。科学が信仰を証明するので、宗教と対立しない世界と言い換えられます。

「不安は自由のめまい」

ボブ・ショウのスローガラスはSF界でも有名な発明品。その系譜に連なるプリズムは、量子的な世界分岐によって両方の世界に並行存在する端末で、両者の間で通信できるというのです。結果として、違う選択をした自分と通信できると言うのですが、そのことが人々の心理や行動に与える影響を考察します。途中までは着地点が見えずに少しもどかしいのですが、最後の収束は鮮やかです。「あなたの人生の物語」に近い読後感を持っている傑作です。

次の短編集が読めるのは、また15年くらい先になってしまうのでしょうか? それまで元気でいなくては(苦笑)。