×ソフトウェアオブジェクトのライフサイクルを読む

bqsfgame2017-10-27

SFマガジン2011年1月号です。
テッド・チャンの新作ノヴェラの一挙掲載。この号だけ古本相場が高いのは、やはりテッド・チャンの人気でしょう。
ちなみに、本国ではハードカバー書き下ろしだったと言いますから、本国での人気はさらに高いのでしょう。原稿用紙250枚と言いますから、昔の文庫本で180ページくらい。長めの短編と言うか、短めの長編と言うか。日本には余りない中編と言うゾーンです。
で、面白かったかと言われると、正直に言ってあまりパッとしない。×は厳しすぎるかも知れません。チャンのオリジナル書き下ろしノヴェラと言われると、どうしても期待値が上がってしまってハードルが高すぎるのですね。
題材的にはSNS環境の育成AIの開発者を視点に、絶滅動物のような末路を辿っていく育成AIのお話しを描きます。
絶滅動物に対する人間側のエゴに対する風刺と読むことも、育成シミュレーションゲーム文化に対する警鐘と読むこともできます。そうした批判小説的な読み方を避けて、単に人情話として読んでもそれなりではあります。
ただ、逆に言えばどう読んでも中途半端な感じもしないではない。そこらへんが、どうもすっきりしない最大の原因です。「息吹」のような純粋思考実験的な面白さとは相容れないのは、題材が実際の現在進行形の文化と密接に関わってしまっているからでしょうか。
動物園の飼育係の話など出さずに、純然たるソフトウェアオブジェクトの話しにした方が読みやすかったのではないかと思います。そこに作者の拘りがあるのなら仕方ありませんが。でも、読んだ限りではそういう風には感じられませんでした。
作者は作品で説明しきるべきと言う持論なので、作者の別途コメントを聞かないと意図が見えて来ないと言うのはそれだけで減点と思っています。
ところで、雑誌掲載から6年半ですが、日本では単行本化されません。日本版オリジナル短編集に組み込むつもりなのでしょうか? そうすると、「商人と錬金術師の門」、「息吹」と一緒でしょうか? 分量的には、もう足りている気がしますがいかが?