図書館です。
「第一長編として、七冠を獲得した」というビックリ実績の三部作の頭です。既に三部作は訳了済みで、いずれ読まなくてはと思ったまま、気が付けば5年も放置になっていました。
ちなみに第一長編四冠で当時を震撼させたのは、ギブスンの「ニューロマンサー」。それを越したのが、「ねじまき少女」の五冠。
なんと言うか、ここらへん「新記録を樹立すべく」最後の方は受賞運動したのではないのと思わないでもありません。
この三つの第一長編で共通するのは、「斬新な概念の創出、提示」に力が入っていて、割ととっつきが悪いことです。どれもリーダビリティが良くありませんでした。特に「ニューロマンサー」には苦戦した記憶があります。
本作の主人公ですが、宇宙艦が自身の人格を多数の人間に転写したアンシラリーです。宇宙艦本体は1000年前に失われて、アンシラリーだけが生き残って人間のように暮らしているという変な存在です。このアンシラリーに「属躰」という漢字を当てて読ませます。ここらへんの翻訳スタイルも、「ニューロマンサー」を想起させます。
で、このアンシラリーがどういうものか丁寧な説明をするより前に、いきなり主人公がかつての艦長と再会する衝撃のシーンから始まってしまいます。
読み進んでいく内に、主人公の存在、この世界の状況、戦うべき敵が徐々に説明されていくという不親切な進行です。
まぁ、この判りにくさ満載の作品が、あらゆる賞を総なめにしたという当りが、どうもピンと来ません。
確かに、斬新です。判って来れば興味深い設定です。物語性もちゃんとあります。でも「七冠だけのことはあるねぇ」‥とは感じませんでした。
ネットを見ていると、同じような感想を持った方が少なからずいるようです。
いろいろなことが判った現在の状態で再読すると、もっと高く評価できるかと思いますが、「再読が必要」という時点でエンターテイメント小説としては減点かと。
三部作の次に進むことはないかと思います。
最後に原題は、「Ancillary Justice」だそうです。アンシラリーという新概念自体が本書の主題なのだなと思います。
なお、続編は、「Ancillary Sword」、「Ancillary Mercy」と続くそうです。