小松短編by中村融セレクションも最後まで来ました。年内に終わってホッとしました。
一応、連作短編集ということになっています。
ただ、テーマが共通しているだけで、世界設定や登場人物は一作ごとに違っています。その意味では、どれも独立短編として読める構成です。
本作品集は個別にみても水準が高いのですが、やはり圧巻は2つ目の表題作でしょう。トラウマ治療のために少女の精神世界に潜入して救助を試みる話です。
このタイプの作品としては、ウィリスの「航路」、ゼラズニイの「ドリームマスター」、プリーストの「ドリームマシン」、ミシェル・ジュリの「不安定な時間」など傑作が多いですが、その中でも特筆に値する出来栄えです。
本作全体として、「生命は何のために、この宇宙に生まれてきたのか?」という問いかけと回答になっています。
「岬にて」は、地球の各地にある宇宙へと知覚が開かれる特殊スポットの話し。
「ゴルディアスの結び目」は、上述の少女の精神世界に潜入して結び目に囚われてしまう話し。
「すぺるむさびえんすの冒険」は、データとして地球を脱出した箱舟宇宙船の破局を描きます。
「あなろぐラヴ」は、女性の絶頂から次の宇宙が生み出され、そのことを記録した資料を次の宇宙の生命体が発見して読み解く話しです。
ゴルディアスの結び目は、あなろぐラヴに受けられているので、やはり本短編集は是非とも通して読んで欲しい所です。
中村融セレクション11篇を全部読んだ感想としては、「黴」と「毒蛇」はなくても良いかなと個人的な好みとしては思います。ただ、小松左京がなんでも書けるのだというショウケースとしては存在意義あるので難しい所です。代わりに入れるとしたら、「あなろぐラヴ」でしょうか。