×ムーンバギーを読む

 高斎正、その2です。

 初期短編集、と言うよりショートショート集に近いでしょうか。260ページ、全13編。

 オートレース好きによるオートレース好きのための作品集という感じです。

 オートレースに関心がないので、頻繁に着いていけなくなりました(苦笑) 再読することはないでしょう。

 あと、「ニュルブルクリンクに陽は落ちて」など、第三次大戦による地球破滅物が目立つのも1960年代の作品集だなと思います。ブラウン全短編集でも同じことを思ったので、当時は世界的にホットトピックだったのだなと思います。

 「スポーツカー」巻頭に置かれた本作は、スポーツカーの定義の曖昧さを議論しています。本書全体のイントロとしてスポーツカーとは何かを説明する役割です。

 「三菱の亡霊」アメリカの高性能戦闘機と戦った三菱ゼロ戦の亡霊に見立てて、レースに参加した三菱がアメリカの高性能車と戦うのを描きます。

 「謎の山岳コース」道に迷ったラリーカーが迷い込んだ、登りばかりで全然下ることのないループの怪談です。

 「五郎のサスペンション」湖底に沈んだサーキットで死んだ友人を訪ねる、これも怪談。

 「メルセデスがレースに復帰する時」「もはやエフワンから学ぶものはなくなった」としてレースから撤退したメルセデスが復帰してきたのは何のためかと言う謎。なんと、メルセデスの新車種は完全自動運転だというのです。その性能を証明するために彼らは復帰してきたというお話し。

 「巨星おちる日」第三次大戦後の人間のいなくなったアメリカ大陸を横断する孤独なメルセデスの旅路。

 「ニュルブルクリンクに陽は落ちて」筒井先生の「60年代日本SFベスト集成」で読んだことがあるはずです。これも第三次大戦後。世界最高の車とドライバーが、その実力を証明する場を失ってしまい、ニュルブルクリンクまで行ってコースレコードを記録しようとする話しです。生き残ったたった二人の男と女は、生き延びることよりコースレコードを優先します。

 「ムーンバギー」もう少しSFらしいものを期待していましたがガッカリ。三流バギードライバーがトップになるために宇宙飛行士になって月面バギー運転手に。しかし、後進が育つに連れ、また三流の立場になるという悲哀です。

 「自動操縦時代」は、自動操縦車の普及により無人運転者に赤ん坊を載せて走行させる子守方法が普及し、それを取り締まる警察の悩みです。

 「ルマン一九五五」は、宇宙時代になってかつてのレースのロマンとスリルを再体験するために完璧なコピーを再現する話し。レース事故による死者まで再現します。

 「死のレース」かつてのレースを再現して疑似体験できるようにし、そのスリルを味わうのですが、疑似体験なのに本当に死ぬ所まで再現しているという話し。

 「馬はめざめる」これも第三次大戦ものですが、人類絶滅後に生き残った野生馬をレーシングカーに見立てて野生馬同士が会合するのを描きます。

 「オリムポスの神々」トヨタ2000GTX対ニッサンシルヴァーナの死闘です。集中最長ですが、延々とレースシーンが続きます。最後にとってつけたようにSFになりますが、これはない方が良い気がしました。最後までレースシーンだけで押した方が高斎正らしい作品なのかと思いました。