図書館です。
例によって蔵書が一冊しかなく、だいぶん待ちました。ベストセラー作家でないのは自明なので止むを得ません。
第二次外惑星動乱の2冊目になります。
「スティクニー備蓄基地」
フォボスの地下深くに設置された航空宇宙軍の備蓄基地の話しです。
基地要員の羽佐間少尉は不審な微弱振動を検出します。外惑星側の奇襲によって発生したデブリの墜落によるものかと思いましたが、どうも違うようです。
植物のようにソーラーセルの葉を広げ、根に当る掘削機で地中を掘ってフォボスの地底基地を探索するという「生物兵器」だと言うのです。
奇抜な新テクノロジーのアイデア小説ですが、宇宙空間の機動を扱うことが多い航空宇宙軍史ものとしては異色な感じがします。
「イカロス軌道」
タイタン宇宙軍の特設警備艦プロメテウス03の下川原特務中尉は、接近してくる巨大艦の正体を懸命に推理する。
それは通常の戦闘艦より大型で、なおかつ土星よりも外側からタイタンに接近してくる。そのような軌道で接近してくる航空宇宙軍の艦があり得るのか?
これぞ航空宇宙軍史という謎です。
答えは、外惑星側の初期奇襲攻撃を生存したコロンビアステーションに展示してあった外惑星探査イカロス計画の展示艦、イカロス4号の2段目を再利用した戦略爆撃艦です。
外惑星探査にも出られる性能を利用し、一旦、土星軌道の外まで出てからタイタン側の警備の一番薄い方面より進入してタイタン地表に無差別爆撃をしようという戦略爆撃任務艦だというのです。
チャベス艦長は、この謎解きを経験の浅い新任士官らの力試しに使います。するとエリートコースのファヴラ候補生より主計課の女性、シャキア少尉の方が能力を発揮して見せます。
「航空宇宙軍戦略爆撃隊」
前作のイカロス42側の状況です。
艦長の早乙女大尉は、学生時代に外宇宙探査艦を利用した戦略爆撃(惑星表面や軌道基地に対する無差別雷撃)を発案したことで注目され、その艦長に任じられました。
しかし、乗艦して任務指令書を受け取ると、無差別雷撃は禁止されていることに失望を隠せません。そこで、艦長権限で無差別雷撃に切り替えるべき策動するのですが、乗員のフェレイラ一曹、ガトー退役中佐らの不協力に遭遇します。
「亡霊艦隊」
初期奇襲に成功したものの航空宇宙軍の予想を超える速度での急速再編成を前にして、外惑星側は寄せ集めの連合任務部隊を編成した。艦隊司令長官の石蕗提督は、その幽霊のごとく復活した内惑星艦隊と遭遇して幻覚かと疑ってしまう。しかし謎解きをしてみせる先任のミン大佐に対してボグダノフ少佐は納得して防諜規定を破ってメモを取ります。一方、陸戦隊のシャキア中佐、先に出てきたシャキア少尉の実兄は、懐疑的な眼を向けます。
「ペルソナの影」
タイタン宇宙軍の後方観測部隊の保澤准尉は、動乱によって中断されていた航路情報の更新を実施している。と言っても、その主目的は小惑星帯に隠匿されている敵艦がないかを確認することである。
とは言いながら当該任務は上級司令部からは軽視されていたのだが、意外にも保澤の報告はタイタン防衛艦隊司令官シコルスキー大佐から直接応答される。
「工作艦間宮の戦争」
センチュリーステーションで、修理任務を実施中だった工廠艦間宮の矢矧艦長は、任務を中断して出航せよと言う命令に絶句していた。指示は進入すべき航路だけを示しており、その後の予定行動について情報はなかった。同艦は、矢矧と工廠長であるハディド中尉の二人しか乗員がなく、相談することもできなかった。
しかし、その任務はタイタン戦略爆撃に失敗して内惑星へと戻ってくるイカロス42に合流・曳航して可能であれば航行中にも修理を進めることと言うものだった。
合流し乗船した艦内では、3人の乗員が全て死亡していた。
と言う訳で、おおむね全編イカロス42の物語になっています。
外惑星連合拠点をさらに外側から戦略爆撃するのに外宇宙探査艦を利用するという衝撃的なアイデアが基盤にあり、そこから派生する物語をいろいろな視点で描いています。
と言う全体構造を理解して読むと、かなり興味深いと思うのですが、あまり判りやすくは書かれていないのでリーダビリティーはかなり悪いです。その分、今回は本シリーズにしては珍しく☆は付けられませんでした。
再読すると評価は上がりそうですが、ひとまず返却しなければなりませんので文庫化されてからでしょうか。