☆高層の死角を読む

 去る7月24日に亡くなられた森村誠一森先生の追悼企画です。

 図書館。

 客室数2000を誇る国内トップクラスのパレスサイドホテルの最上階で、そこを執務室として使っていた同ホテルの社長、久住が刺殺されました。

 しかし、オートロック式の最新ホテルのその部屋は前室が付いていて二つの鍵の掛かった扉を抜けなければ犯人は進入できないという密室トリックです。

 森村先生は前歴がホテルマンだったとのことで、その経験を生かして巨大ホテルを丁寧に描き出し、問題の密室トリックについても丁寧に設定しておいて、刑事たちにその死角を懸命に探させます。

 この部分について言うと、ホテルと言うのは矛盾があるもので、客のプライベートを守るための防衛機能としてのオートロックの完全性を追求する一方で、デッドロックなどの巨大ホテルでは必然的に発生する問題に対して速やかに対応して開ける仕組みを持たねばならないのです。

 なので、コピー禁止契約の付いたディンプル錠を使う一方で、フロントに合鍵が一つあり、フロア責任者は、フロアの鍵を全部開けられるフロアパスキーを持っており、総支配人は全部の鍵を開けられるグランドマスターキーを持っているのです。こうした鍵の一つ一つの所在と管理を確かめていきますが、どの鍵も使うことはできなかったという事実に辿り着きます。

 そして、最後は部屋の鍵が部屋の中に在ったと言うのは本当かと言う原点に還ってきます。

 そして、このトリックを偽装した共犯者が博多で殺害されて始まる後半では、いかにして東京から博多を往復したかと言う松本清張「点と線」を思わせる時刻表分析の捜査が繰り広げられます。

 テイストの違う二つの捜査を連結した傑作で、本作が乱歩賞を受賞し、森村誠一の初期代表作となったのは郁子なるかなと思いました。初めて読みましたが、これは読んでおくべき作品でした。

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