ブルーバックスです。
どこからアンテナに引っかかってきたのか、図書館の予約待ちが長すぎて忘れてしまいました。
p29
オルガネラは独立して働いているが、互いに物質のやりとりも行っている。
p35
エンドサイトーシス経路によって細胞の外から中に取り込まれるものは、多岐にわたっている。栄養も取り込まれるし、情報分子も取り込まれる。病原体が取り込まれることもある。
p37
オートファジー経路とは、細胞質にあるものをリソソームに運ぶ経路である。まず細胞質で「隔離幕」と呼ばれる構造が作られる。
p63
電子顕微鏡は、人類が持つイメージング技術の中で最高の解像度を誇る。ただし、電子顕微鏡では電子線を当てて観察するため、試料は真空中に置く必要がある。生物試料を真空中に置くと、水分が蒸発して干からび、構造が変わってしまう。
p97
電子顕微鏡で観察するには細胞を固定する必要があるが、ミトコンドリアは細胞の状態が悪くなったり、細胞周期のある時期になると、ちぎれてしまう。そのちぎれた状態が電子顕微鏡で観察され、長らくミトコンドリアの姿として認識されていたのである。GFPの登場によって、ミトコンドリアを生きた状態で観察できるようになった。そうして、ようやくミトコンドリアの本当の姿が明らかにされた。
p111
哺乳類の赤ちゃんの場合、母親のお腹の中にいるときは、へその緒を通して栄養が供給されている。出生直後は、へその緒からの栄養供給がなくなり、母乳によって栄養が得られるようになるまで飢餓状態となる。しかしマウスの場合、母乳を飲まなくても24時間ほどは生きていられる。生まれたばかりのマウスは、オートファジーによって細胞の成分を分解し栄養を獲得することで、飢餓状態をしのいでいるのだ。
p113
細胞の中のタンパク質をオートファジーで分解してアミノ酸にする。そのアミノ酸を材料にタンパク質をつくっているのだ。
p114
しかし、細胞の中にあるものを分解して同じものをつくり直すというのは、おかしな話に思える。分解するのにも、つくるのにも、エネルギーが必要である。
p115
オートファジーによる細胞の代謝回転を説明するとき、ギリシャのパルテノン神殿と日本の伊勢神宮をよく例に出す。どちらも2000年以上前から存在している建物だ。
パルテノン神殿は頑丈な石でできているが、あちこち崩れている。伊勢神宮は木でつくられ屋根は茅葺きであるにもかかわらず、ピカピカだ。これにはトリックがある。伊勢神宮は式年遷宮といって20年に一度すべてをつくり替えているのだ。
p118
これらのことから、細胞の中に細菌が進入するとオートファジーが起こって最近はオートファゴソームに包まれ、分解されて死んでしまうことがわかった。
p142
実はミトコンドリアに穴が開くとオートファジーによって除去されることは、すでにほかの研究者が見つけていた。
ミトコンドリアに穴が開くと、エネルギーをつくるときに発生した活性酸素が細胞質に出て行ってしまう。活性酸素は猛毒なので、細胞が死んだりがんになったりする。
p146
中身の作り替えがうまくいかないと、細胞機能に支障が出て、細胞死や疾患を引き起こしてしまう。しかし、わたしたちの体を構成している細胞は、生まれてからずっと同じ細胞と言う訳ではない。胃や腸の表面の上皮細胞は1日程度、血液中の赤血球は約4か月、骨の細胞は約10年と、寿命はさまざまだ。
一方で、ほとんど入れ替わらず、生まれてからずっと使い続けなければいけない細胞もある。脳の神経細胞や心臓の心筋細胞だ。神経細胞や心筋細胞にとっては、中身の作り替えがほかの種類の細胞より重要になってくる。
p151
損傷したミトコンドリアがオートファジーによって選択的に除去されていることを、前に述べた。PRKNがコードするタンパク質は、損傷ミトコンドリアに分解の目印であるユビキチンを付ける働きを担っていた。
p159
こうして私たちは、オートファゴソームとリソソームの融合をINPP5Eが制御していること、そしてジュベール症候群の発症はオートファジーの機能低下による可能性があることを明らかにした。
p164
これらのことから、オートファジーが起きないと、損傷したリソソームを除去できなくなり腎障害が悪化することが明らかになった。
p166
しかもオートファジーが関わっている疾患は多岐にわたり、社会的に重要な疾患も多い。アルツハイマー病やパーキンソン病は、年を取るにつれて発症しやすくなるため、高齢化に伴う患者の増加が危惧されている。
p167
新しいがんの治療法でノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑も、がんを治そうと研究していたわけではない。
本庶先生は「画期的な発見は、狙ってできるものではない。役に立つかどうかわからない研究をできなくなったら終わりです」とよく言われている。
p191
こうすると寿命が延びるということが、さまざまな動物実験から知られている。
1つ目はカロリー制限。1食のカロリーあるいは食事回数を減らすと、寿命が延びる。
2つ目はインスリンシグナルの抑制。インスリンは、食後に血糖値が上昇すると、それに反応して膵臓からインスリンが分泌される。重要だからインスリンシグナルは多い方がよいかというと、ある程度抑制した方が寿命が延びる。
3つ目はTORシグナルの抑制。TORはリン酸化酵素で、アミノ酸やグルコースなどの栄養素が増えると活性化され、タンパク質の合成や細胞の増殖を抑制している。
4つ目は生殖細胞の除去。生殖と寿命は逆相関の関係にあり、生物としては次の世代をつくってしまえば不要、ということなのだろう。
5つ目はミトコンドリアの機能の抑制。ミトコンドリアは細胞のエネルギーをつくっているオルガネラである。当然欠かせないオルガネラだが、エネルギー産生をある程度抑えた方が寿命が延びる。
これらを見ていると、何事もほどのどにがよいのかなと思えてくる。
p203
特定のタンパク質を任意の臓器だけで働かなくすることもできる。最も寿命が延びるのは、脳でルビコンをなくした場合だった。脳が寿命の決定に関わっていると考えている研究者は多く、私もその一人である。
p210
多くの細胞の場合、機能を正常にするにはオートファジーを活性化した方がよい。だが、例外的に止めた方がよい細胞がある。がん細胞だ。
p220
オートファジー分野では、被引用数トップ10の論文のうち4本が日本から出ている。トップは、LC3に関する私の論文である。
p221
しかし、特許の出願数を見ると、状況は一変する。