今年の星雲賞候補作の一角。
赤坂桃子さんの訳ですが、調べたらローダン翻訳陣の一人なのですね。そうか、ドイツ語か(←気が付くのが遅い)。
WW2でナチスドイツが勝っていたというオルタネートものは、割と多くあります。有名な所では、「高い城の男」、「プロテウス・オペレーション」。
コニー・ウィリスの超大作も背後にそういうものが隠れていて終盤に驚かせてくれました。
本作ではナチスが勝つ要因として、携帯電話とインターネットを戦前にドイツが開発していたという所から始まります。
これを利用して国民や敵国情報を監視する機関がNSAです。
冒頭では、このNSAがヒムラー長官に対するデモンストレーションとして、ドイツ勢力下の都市に匿われているユダヤ人を情報から炙り出します。ヒムラーの指定した都市はアムステルダム。標準偏差を越えたカロリー消費からユダヤ人家族を匿っていると判定された家の隠し扉の奥にいたのは、オットー・フランクの一家でした。
娘のアンネが付けていた日記は、その場で焼かれてしまいます。
本書の視点人物はNSAに勤務する二人です。ヘレーネ・ボーデンカンプは、プログラマーで、前述のユダヤ人炙り出しのための情報処理プログラムを執筆しました。しかし、彼女は東部戦線から脱走してきた兵士と恋に落ちてしまい、彼を友人の農場に匿ってもらいます。そして、自分が知る炙り出し側の手管を全て動員して彼が見つからないように努力していきます。
もう一人は得られた情報の分析官であるオイゲン・レトケです。彼は学生時代に彼を侮辱した女子学生4人に復讐するために自分の立場と情報を悪用して一人また一人と強姦していきます。しかし、最後には情報の私的流用を見つけられ命がけの逃走を開始します。
と言うことで二人とも、親ユダヤ視点では悪役なのですが、自分たちの事情でそれぞれ自分たちの組織を裏切って追われるようになります。
上下巻で1000ページを越える大作ですが、非常にリーダビリティは高く、次々に起こる新しいピンチに本を置くことが難しくなり、一気に読み終わってしまいます。
なるほど、これは傑作だと思いました。
エシュバッハの本は他にも既訳があるようですので、探そうと思います。