☆ファウンデーションを読む

 トランター三部作を終えて準備万端で「銀河帝国の興亡・三部作」へ。

 いまの版の表紙絵を貼っておきます。ウチのは前のやつですが‥。

 今回、初めて岡部宏之訳のハヤカワ文庫版で読みます。

 この三部作は、圧倒的に1から2の前半までのセルダン予想に則ってファウンデーションが危機を次々に乗り越えていく部分が面白いです。

 2の後半からはミステリー仕立てになるのですが、「はだかの太陽」や「夜明けのロボット」でも書いた通り、アシモフのミステリーはあまり上手く書けていないと思います。

 でも、今回は岡部訳で最後まで読み通すつもりでいます。自分の目が黒い内に三部作を通して読めるのは今回が最後かとも思いますし‥。

p18

トランター

 その都市化は着々と進み、ついに絶頂に達した。トランターの面積7500万平方マイルの陸地表面が単一の都市になった。人口はその最盛時には400億を優に超した。この膨大な人口のほとんどすべては、もっぱら帝国に必要な管理部門で働いていたが、その作業の複雑さに比べてあまりにも人数が少ないと皆が感じていた。

p26

心理歴史学

 ‥ガール・ドーニックは非数学的概念を使って心理歴史学を次のように定義した。それは一定の社会的、経済的刺激に対する人間集団の反応を扱う数学の一分野であり‥

 ‥これらすべての定義において、扱われる人間集団が有効な統計処理を受けられるだけの充分な大きさを持っているという仮定が、その前提条件になっている。かかる集団の必要な規模はセルダンの第一定理にって決定される‥さらに次のような仮定が必要となる。人間集団の反応が真に任意のものであるためには、その集団自体が心理歴史学的分析に気付いていないこと‥

p31

公安委員会

 ‥エンタン家の最後の人、クレオン1世が暗殺された後、貴族グループが台頭し権力を握った。かれらは大体において、帝権の揺らいだ不安定な世紀に社会秩序をもたらす一つの要素となった。それは通常、有力なチェン家およびダイヴァート家の支配下にあったが、次第に堕落して現状維持のための盲目的な道具となり‥最後の強力な皇帝、クレオン2世の即位後まで、国家の中の一つの勢力として完全には除去されなかった。初代委員長は‥

p42

問 セルダン博士、人間の全体の歴史は変更できますか?

答 はい。

問 容易に?

答 いいえ。非常な困難が伴います。

問 なぜ?

答 惑星全体の人々の心理歴史学的な流れは、きわめて強力な慣性を持っています。それが変化するには、それと同等の慣性を持つものと出逢わせなければなりません。同じくらいの人数の人人が関係するか、または、人数が比較的少ない場合には、変化のための膨大な時間を見込まなければなりません

p57

「でも、あなたは否応なしに追放させるためにのみ、その恐怖を搔き立てました。わたしにはそれが理解できません」

「二万家族がおそらく自分の意思で、銀河系の果てまで旅をすることはないだろうよ」

「でも、なぜ強制的にそちらに行かなければならないのですか?」間を置いて「わたしには教えていただけないのですか?」

 セルダンはいった。「まだ、だめだ。今のところは次の事を知っているだけで充分だ。科学的避難所がターミナスに建設されるということ。そして、もうひとつが銀河系の反対側の端に。その他としては、わたしは間もなく死に、きみはわたし以上に物事を見るだろうということ」

p65

「ではなぜ帝国は、アナクレオンの太守が引き革を蹴り除けるのを防ぐことができなかったのかね? それもアナクレオンだけかね? 少なくとも、銀河系の最外縁の星区のうち二十が、事実上、外縁部のすべてが、勝手な方向に走りはじめている。はっきりいっておくが、わたしは帝国と、そのわれわれを守る能力に、大きな不安を感じているのだ」

p85

「ああ」ファラはいった。「しかし、それはあなたが間違っているかもしれませんよ。こうは思いませんか?」-かれは言葉を切り、丸い小さな鼻に指を当てて-「霊廟がとても都合の良い時に開くとは?」

p100

‥御前さまは気付かなかったし、記録は残った。わたしはその記録をホルクのところに送って、やはり分析させました」

 ランディン・クラストがいった。「それで分析の結果は?」

「それが」ハーディンは答えた。「おもしろいんです。その分析はあらゆる点で三つの中でもっとも困難でした。しかし、ホルクが二日間懸命に努力して、無意味な言葉、あいまいなおしゃべり、無用の条件付け-手短にいえば、おつゆを全部-除去に成功してみると、結局あとには何も残らなかったのです。すべてが消去されてしまいました」

 諸君、ドーウィン卿は五日間話合いをしたあげく、何ひとつ話さなかったのですよ。それも諸君が決して気付かないようなしゃべり方でね。これが、諸君の愛する帝国から得た保証の実体なんです」

p105

「しかし、ハーディン」ファラが念を押した。「われわれには見えないんですよ!」

「見ようとしなかったからです。一度だって見ようとしなかった。そもそも最初は、脅威が存在することすら認めなかった! 次に諸君は皇帝への絶対的、盲目的な信頼の上にあぐらをかいた! 今度はそれをハリ・セルダンの上に移した。諸君は徹頭徹尾、権威または過去を頼りにしていて-けっして自分自身を頼りにしたことがない」

p107

‥諸君はアナクレオンハリ・セルダンの心配しているすべてだと、思っているのですね。わたしはそうは思いません! いいですか、諸君、実際に起こりつつある事を、あなたがたのだれ一人としてほんの少しも認識していないのですよ」

「それで、きみは認識しているというのかね?」ビレンヌが敵意を見せて尋ねた。

「そのつもりです!」ハーディンは飛び上がり、椅子を後ろにずらした。その目は冷たく厳しかった。「はっきりしていることがひとつでもあるとすれば、それはこの状況全体に何かうさん臭いところがある。われわれが今までに話した事よりももっと大きい何かがある、ということです。そこで、次の事を自問してみてください。ファウンデーションの最初の住人のなかに、ボー・アルーリンを除いて、一流の心理歴史学者が一人も含まれていなかったのはなぜか? しかもアルーリンは弟子たちに基礎以上のことを教えるのを、注意深く避けていた」

p114

 かれはいった。「このファウンデーションが設立されてから、これで五十年たつ-その五十年間、ファウンデーションのメンバーは自分たちが何を目指して働いているか知らずにきた。かれらに知らせないことが必要だったのだ。しかし、もうその必要もなくなった。

 まず第一に、【百科事典財団】というのは欺瞞である。これは最初からずっとそうだったのだ!」

 ハーディンの後ろで身じろぎする気配があり、一つ、二つ、押し殺した叫びが上がったが、かれは振り向かなかった。

p117

「しかし、きみたちの未来がどんなに曲がりくねったコースをたどるにせよ、きみたちの子供の心に次の事を銘記させてほしい。このコースはあらかじめ設定されているものであり、その果てに、新しい、より偉大な帝国があるのだと!」

 そして、彼の目が本の上に落ちると、その姿はふっと消滅し、照明がふたたび明るくなった。

 ハーディンが顔を上げると、悲壮な目つきをして、唇を震わせているビレンヌが目の前にいた。

 その理事長の声はしっかりしていたが、無表情だった。「どうやら、きみが正しかったようだ。今夜六時にきてくれれば、理事会は次の活動についてきみと協議する」

p200

 ハーディンは、今、小部屋の中に現れた姿-車椅子に座った人の姿-を見て、背筋を伸ばした。この姿が最初に出現した何十年か前のあの日を覚えている人は、ここには、ほかにいなかった。あの頃は、若かった。そして、あの姿は年老いていた。あの時以来、この姿は一日も年を取らないかわりに、自分が年をとってしまった。

 それは言った。「わたしはハリ・セルダンだ!」その声は年老いていて穏やかだった。

「わたしがここに現れるのは二度目だ。もちろんここにいる諸君の何人が最初の時に居合わせたか、わたしにはわからない。そんなことはどうでもよい。もし、二度目の危機が無事に乗り切れたなら、諸君はきっとここにいるはずだ。当然そうなる。しかし、もし君らがここにいなければ、第二の危機はきみたちにとって荷が重すぎたのだ」

p314

‥われわれの持つ宗教は、その目的にかなうもっとも重要な道具なのだ。それによって、われわれは「4つの王国」を支配下に置いた。かれらの方がわれわれを押しつぶしたかもしれない時にさえもだぞ。それは人間と世界をコントロールするために知られているもっとも強力な考案物なのだ。

 貿易と商人を発達させた第一の理由は、この宗教をよりすみやかに導入し広めることによって、新技術と新経済の導入が、われわれの徹底的かつ懇切なコントロールを受けやすくするためだった」

 その時、マロウは静かに口をはさんだ。「その理屈は知っている。完全に理解しいるよ」

p338

 ダーク・ネビュラ号の大尉は恐ろしそうにヴィジプレートを見つめた。

「おどろきもものき! ありゃなんだ?」

 それは宇宙船だったが、ダークネビュラをハヤとすれば、そいつは鯨だった。そして、その横原には帝国の【宇宙船に太陽】の紋章がついていた。小船の船内のあらゆる警報が狂ったように鳴り響いた。

p346

「帝国から新しい原子炉を入手することを思いつき次第、気のすむまでさ」

 するとマロウは楽しそうに笑った。「間違ってる、サット、主席自身が間違ったと同様に。ひどい間違いをおかしている。きみはあらゆる点で間違っており、なんにも理解していない。いいかね、きみ、帝国は何も補給することはできないのだ。帝国は常に広大な資源の王国だった。かれらは何もかも、惑星群の規模で、星系群の規模で、銀河系の全星域の規模で計算してきた。かれらは途方もなく巨大な規模で物事を考えた。だから、かれらの原子炉は途方もなく大きい。

 しかし、われわれは-われわれ小さなファウンデーションは-ほとんど金属資源のない単一の世界は-非常識な経済で仕事をしなければならなかった。われわれの原子炉は人の親指ほどのサイズでなければならなかった。なぜなら、せいぜいそのくらいしか、金属を使うことができないからだ。われわれは新しい技術、新しい方法を開発しなければならなかった-帝国が追従できない技術や方法をだ。なぜなら、帝国は真に生命力のある科学的進歩をすることができる段階を超えて、退化してしまっているからだ。

 かれらは一隻の宇宙船を、ひとつの都市を、ひとつの世界全体を守るのに充分な大きさの原子力シールドを持っていながら、一人の人間を守るシールドをついに作ることができなかった。ひとつの都市の光熱を賄うために、かれらは6階建てのモーターを持っていた。われわれのものはこの部屋の中に入るのにね」

訳者あとがき

p353

 これはアシモフファウンデーションシリーズの第1巻である。この物語を読んでいると、現在(1984年)の日本とそれを取り巻く世界の状況が、奇妙に二重写しになって見えてくる。銀河系の最果てにある、天然資源をまったくもたない、孤立した小さな惑星ターミナス。そこには軍備はほとんどなく、科学技術(それも小型のものほど、得意なのだ)だけを頼りに、便利な日用品を生産して近隣の諸国に売りこみ、それで支配権の拡張を図っている。それに対して、強大な軍事力を背景にし、巨大な規模でしか物を考えることができず、巨大な物しか作ることのできない銀河帝国およびその残党は、どうしても勝つことができないのである。