〇大統領の密書を読む

 大富豪同心31です。

 ついに、リアルタイム最新刊に追いつきました。ここまで何年かかったことか。
 さて、薩摩藩の陰謀で始まった前巻でしたが、どちらかと言えば京のお公家さんたちの方が悪い。アメリカ海軍のトマス提督は、それに巻き込まれた感が強いです。
 八巻は、将軍のお取次ぎ役に出世して同心との二役。
 この巻では、無事に無罪放免となった源之亟の深川宴会では本来の道楽者の姿も見せます。
p8
 美鈴が茶托を掲げて入ってきた。
「粗茶でございます」
「ああ、ありがたいねえ。ちょうど一休みしようと思っていたところさ」
 徳右衛門は茶碗を手に取る。
「菊野はいないのかい」
 美鈴はハッと胸を突かれた顔つきとなる。
「深川に行かれました‥」
「そうかい」
 徳右衛門は茶を啜った。美鈴は恐る恐る訊いた。
「あたしが淹れたお茶では不味いですか」
「三国屋の大旦那は江戸一番のケチん坊だからね。三国屋で出される茶は安物だ。誰が淹れたって不味い茶になるよ」
「ですが、大旦那様は今、菊野さんをお呼びになろうとなさいました」
「菊野は算盤が達者だからね。あんたは算盤ができるのかね」
「苦手です」
 美鈴はますます身を縮めた。
p24
 京の公家たちは御所の周辺に宅地を拝領して暮らしている。公家社会の頂点に立つのは摂関家の五家。次が清華家の九家で、続いて大臣家の四家。お公家さんと聞いて連想するのは、これらの家の人人であろう。
 その下に羽林家、名家、半家の合計百二十家が連なる。このあたりが完了に相当する。御所への昇殿も許される。中級公家といったところか。
 さらにその下に地下官家の四七四家があった。こちらは公務員だ。昇殿することは許されなかった。
p70
 栗ケ小路中納言は人ごみをかき分けて前に突き進む。酔客たちにとってはいい迷惑だ。
「なんでぇこの神主は!乱暴な野郎だぜ」
 立烏帽子に狩衣の栗ケ小路を見て、神主と勘違いをした。
 栗ケ小路は山車の上の卯之吉に向かって叫んだ。
「無礼者めっ、下りてまいれ」
 卯之吉はヒョイと首を伸ばして栗ケ小路を見た。
「おや。栗ケ小路様ではございませぬか。あなた様も深川でお楽しみですかえ」
p95
「水谷様も源之亟様もお留守ですし。心細いことです」
 喜七がぼやくと聞くのは列の最後尾に目を向けた。
「頼りになる用心棒がいるじゃないのサ」
 美鈴が歩いている。まったく油断の感じられない足運びだ。
p156
「二十万両を超える金が動いたならば三国屋が気づかないわけがない。というよりも、ずっと前から気づいてましたねぇ。あははは!その大金を止めたのは三国屋とあたしでした!」
 通詞が目を剥いて通訳する。居並ぶアメリカ人たちが椅子を蹴立てる勢いで身を乗り出した。
p246
薩摩守よ。島津の隠居、道舶の罪状は明々白々。かの老人はメリケン国より大量の武器を二十五万両で購入せんとした。取次役の八巻大蔵による取り調べと、トマスの証言によって明白」
「そっ、そのような大金、島津家にはございませぬッ」
「二十五万両のうちの十万両は三国屋より借用せんとした。島津家御用人、高隅外記が差し出した借用証文もこれにあるぞ」
p256
「馬鹿野郎ッ、大目付の詮議が始まったなら最後、島津家七十七万石は間違いなくかえきされちまんだぞッ。異国の曲者の捕縛という名目にして、島津家を改易から救おうっていう、上様のご厚情がわからねえのかッ」
 村田が激昂する。
p313
ヤマキ
 トマスは声をひそめた。
「日本の大統領になる気はないか。もしもその気があるのなら、わたしがいくらでも手を貸そう。アメリカから軍隊を連れてくるぞ」
 卯之吉は、笑った。
「あたしをぷれじでんとに、ですか。先日も似たようなことを言われましたよ」