〇漂着うつろ舟を読む

 大富豪同心30です。

 ちょっと間が空きました。図書館。

 実は先に大統領の密書を借りて読み始めたら、話しが見えない。どうも、これは一冊読み落としているようだと確認し、急遽、こちらも借りてきました。

 一連の関東水害編の決着も付き、新章突入です。

 今回はついにアメリカ国が登場してきます。

 前の章から登場してきた悪役の薩摩藩前の藩主、島津道舶の所に琉球にやってきたアメリカの黒船が最新式銃を三千丁も売ってくれるという話しを持ってきます。これだけの新式銃を手に入れれば、幕府打倒も可能と判断した道舶は、二十五万両で買うと返答します。

 その金策として、三国屋から十万両、幕府から十万両を借りて、残りの五万両を抜け荷で得ようと企みます。

 ところが、折悪しく、水害事件で大活躍した卯之吉が上様に見込まれて御用取次役となり、三国屋と幕府の両方に同時に借財を申し入れてきたことに不審を抱き、どちらも断ってしまいます。

 止む無く新潟港経由で抜け荷を江戸に持ち込もうとしたら、そこにたまたま居合わせた源之亟にも阻まれ、止む無く源之亟に正規荷物を奪われたと訴え出ます。

 道舶と組む京都の栗が小路中納言は、京都の権威を利用して江戸への入り鉄砲(上記の抜け荷)を押し通します

 そんな折、大統領から薩摩に停泊中のトマス提督宛の密書を載せた船が常陸沖で難破し、載っていたトマス提督の愛娘アレイサは、漂着します。

 実は本巻の叙述上は最後が冒頭になっていて、続いて薩摩の話しになり、それから江戸、新潟へと進んでいます。こうして改めて全体像を整理すると叙述が凝っているのがわかります。

p64

 ヨーロッパ諸国は東南アジアに港を構えており、居留地では独自に新聞も刊行していた。幕府は長崎のオランダ商人や清国の商人を介してそれらの新聞を取り寄せ、和訳する制度を作り上げた。

 幕末の記録によると、香港の英字新聞を十日後には老中が江戸城で閲覧できたということだ。

p146

「まだ荷は残っております!船をお戻しくださいっ」

 源之亟は怒鳴り返した。

「馬鹿言っちゃいけねぇ。海が荒れすぎて無理だぜ!」

「お約束どおりにこちらは銭を払いましたよ!」

「二百文の銭と引き換えに命を捨てろとは言えねぇ!」

p154

 巨漢の腕は丸太のように太い。刀も分厚くていかにも頑丈にできている。

「手前ぇ!日本の武士じゃねぇなっ?」

 噂に聞く清国の青龍刀だ。

 もしも源之亟のたちが普通の刀であったなら青龍刀に折られていたかもわからなかった。

「殺!」

 源之亟は素早く飛び退いた。

p188

 ちなみに、上様の食膳は何十膳も作られる。その内のひとつが無差別に選ばれて上様の前に出される。残りの膳は家臣たちが食べる。卯之吉も銀八もその冷え切った飯を供されていたのだ。

 卯之吉も笑顔でご飯を食べている。

「美味しいねぇ。生き返るようだよ」

 その様子を美鈴が嬉しそうに見守っている。必死に修業した甲斐があって料理の腕が上がったのだ-と信じた。

 銀八と卯之吉は笑顔で言い交している。

「美鈴様の作ったご飯をこんなに美味しくいただけるなんて、嘘みてえでげす」

「幸千代様が美鈴さんのご飯を『美味しい美味しい』と仰っていた理由がわかったねぇ」

 美鈴の笑みが引っ込んで、眉間に皺が寄り始めた。