☆卯之吉江戸へ還るを読む

 上州水害を解決して江戸へ凱旋する卯之吉。

 今回は引き続き、薩摩藩との確執です。薩摩藩による信濃守の老中出世支援工作ですが、今回は薩摩藩が新潟湊で抜荷で仕込んでいる砂糖(主として輸入砂糖)の価格を上げるために江戸の砂糖在庫倉に放火する工作です。

 シリーズで以前にも出てきた通り当時の江戸では火付けは大罪。そんなリスクを負ってまで砂糖相場を仕掛ける薩摩藩ご隠居の執念。折から夏場で保存料としても使われる砂糖が不足して江戸では単なる砂糖不足ではなく庶民の保存食不足となり打ち壊しも起きかねない不穏な情勢に。まさにご隠居の思惑通り。

 ところが、饅頭大食い競争の金主を道楽で引き受けた卯之吉は砂糖不足で競争が催せなくなり砂糖が新潟湊に眠っていると聞いて、再び江戸を出て新潟湊を目指します。この凄い行動力に唖然とするいつもの面々。

 逆に三国街道で相打ちになって崖下に転落した水谷は、近在の猟師に助けられて江戸へ帰ります。その道中で新潟湊の廻船問屋の手代を助けることになり、上記の事件に上手く嚙み合って合流します。

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 こうなればもはや誰にも止められない。江戸市中に雪崩れ込むと同時に、彼らは手当たり次第、商家を破壊し始めるであろう。

 そんな緊張が頂点に達した瞬間であった。大川の川上から、場違いな音曲が鳴り響いてきた。

「な、なんだ‥?」

 殺気立っていた人々が、思わず足を止めて川面に目を向けた。上流から、提灯や幕で派手に飾りつけた屋形船がくだってきた。

「それーっ、歌えや踊れ~」

 調子の外れた声がする。屋形船の舳先で若旦那が踊っている。

 前2作品に続いて、割と大きな経済動乱(幕府での老中ポスト争いに端を発します)を卯之吉がたまたま見事に解決してしまうという展開は共通です。天満屋一味がいなくなって枷が外れたかのような大活躍が続いています。

 女剣豪の美鈴が和菓子をパクつくシーンや大食い競争に登場する相撲取りの餡子山などの愛嬌もあって、軽快に楽しく読める一冊になっています。