☆太陽風交点を読む

bqsfgame2005-04-17

日本ハードSF界の‥と書いたところで言葉が見つからなくなってしまった。昔は新星と書いたのだが、いまさら新星でもあるまい。第1回日本SF大賞の受賞作品。当時、SFアドベンチャーを購読していて、この作品の受賞には短編ということや、日本ではマイナーな本格ハードSFということもあって驚いた記憶がある。
その一方でSFの原点が「サイエンス」フィクションであるというのが、当時の選考委員会の総意だったのかな‥という受け止め方をした記憶もある。ハードカバーで発売されてしまった短編集は学生には手が出ず、文庫になったときには関心が薄れていて買いそびれ、今になって古本で読むことになった。
ほぼ30ページの作品がずらりと10編並んでおり、そのいずれもがハードSFという短編集はなかなか見当たらない。読んでいて「SFだねぇ」と思うと同時に、ページ数以上の重量を感じる。
巻頭の「イカルスの翼」は灼熱地獄になる偏心衛星への流刑の物語。いかにもハードSFらしい短編。「時間礁」は一種の時間ループものだが、フィードバックによる発散と収束という仮説を示していてこれまたハードSFとしか言いようがない。「迷宮の風」は迷宮状の複雑なネットワーク構造を持つ惑星は実は‥というアイデアストーリー。「最後の接触」は生体部品として大脳と反応系を別々に外宇宙探査に利用された末の悲劇。「太陽風交点」はさすがの表題作で、太陽フレアの予測技術と、結晶生物と、婚約者への追憶を重ねている。アイデア中心のハードSFだけでなく追憶が上手く織り交ぜられているところが素晴らしい。
全体の水準が高く素晴らしい短編集だと思う。日本SF界が誇って良い作品集だと思う。