グラントの評価

前述してきた話しを踏まえると、グラントの評価と言うのも修整を必要とするであろう。
グラントは西部戦線での重要な勝利に寄与し、リンカーンがそれを正当に評価して重要なポジションに引き上げ、東部戦線で難敵ボビー・リーを相手に前任者たちにはなかった断固たる攻撃姿勢を貫いて最終目的を貫徹した‥というのが一般的な評価であろう。
ところが、前述してきた流れで考え直して見ると、彼が出世するに当って重要だった要素の一つとして「リンカーンが期待していることを理解して行動することができた」という部分が実は大きいのではないかという気がする。
もちろんグラントのオーバーランド戦役は、戦術的にはともかく戦略的には南軍をギブアップさせるための最適な手段であったと思われ、塹壕戦への突撃による損害を省みずコミットメントを徹底する重圧に打ち勝って最後まで戦い抜いたことは評価されてしかるべきである。
しかし、新聞に「肉屋」と渾名されてしまうほどに損害を出し世論の抵抗もあったオーバーランド戦役を戦い抜けたのは、偏にリンカーンの支持があったからであろう。
リンカーンの意向を判断して動いていたと思われる事例の一つに、チカマウガ戦の後のローズクランズ将軍の更迭が挙げられる。ローズクランズは、初夏のタラホーマ戦では大きな成功を収め、その余勢を勝って侵攻したチカマウガ戦で敗北してチャタヌーガで包囲されてしまった。敗北の直後とは言え、その前の戦果と合わせてトータルで考えればローズクランズのパフォーマンスは、即座に更迭されるべきほど悪かったとは言い難い。
しかし、リンカーンからチャタヌーガの危機解消のために送り込まれたグラントは、経緯から見てリンカーンの支持はローズクランズに非ずと見ると、早々にローズクランズを更迭してトマスと入れ替えてしまう。この辺りの「リンカーンの風向き」に敏感であったことが、グラントが将軍として成功した要素の一つなのではないかという気がしてならない。
またグラントは後に大統領に就任することになるが、大統領としては汚職問題などで極めて評判が悪く、トップに立つものとしては評価されえない人物だったようだ。彼の適性が「部下としての実行力」にあったのだとすれば、なるほどと納得される後日の姿であるように思う。
[つづく]