ゲームレビュー:バルバロッサキャンペーン

バルバロッサキャンペーンの対戦が非常に面白かったので、思い切ってこの国産ゲームの面白さを英語でパブリッシュしてみようかと奮起することにした。ひとまず日本語の下原稿。
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1:ゲームタイトル
 バルバロッサキャンペーン
2:ゲーム出版社
 ゲームジャーナル
本作品は旧版ゲームジャーナルの41号と44号の付録ゲームとして分割掲載された。
3:ゲームデザイナー
 中村徹也。ゲームジャーナルの「信長最大の危機」で日本のウォーゲームシーンを震撼させ、その後も質の高いゲームデザインを継続的にゲームジャーナルで発表し、ゲームジャーナル誌を日本語版コマンド誌と肩を並べる定期発行ウォーゲーム雑誌の地位に押し上げた。ゲームジャーナル誌の編集長も勤めている。
4:ゲームテーマ
 WW2、東部戦線のバルバロッサ作戦を1941年6月の開戦から1942年2月まで描き出す。
5:ゲームスケール
 マップの範囲は、西は独ソ国境、南はセバストポリ、東はゴーリキ、北はレニングラードまで。
 1へクス=80km。
 ユニットサイズは、軍。
 1ターンは1ヶ月。
6:ゲームコンポーネント
 ゲームマップは、雑誌の裏表紙を利用したハードボード。
 ユニットは、両面方式でシールとして提供され読者が厚紙に両面貼って工作する。
7:ゲームシークエンス
 移動力受領
 増援
 オペレーション
8:特徴的なゲームメカニクス
 スライスオブタイム
 3Wのハインド社長が「デサートラット」で提案し、GDWのチャドウィック社長が「ホワイトデス」で完成させたシステム。1ターンの許容移動力を分割して使用することができるシステムで、小移動力×多戦闘回数と、大移動力×少戦闘回数の間のジレンマがある。
 本作ではドイツは夏の攻勢時には1ターンに8移動力を保有している。本作の特徴的な部分として、戦闘にも移動力が必要となっている。
 歩兵部隊の場合には、平地移動に1、ZOC間移動は一切不可、攻撃に2移動力が必要である。
 装甲部隊の場合には、平地移動に1、ZOC間移動が可能で+1、攻撃に1移動力が必要である。
 つまり、2移動力を設定すると、歩兵は移動しないで攻撃のみが可能。装甲部隊は1へクス移動して攻撃が可能。戦線が停滞したり、戦闘後前進の利用で歩兵の接敵状態が維持できているような状況では、最大限の戦闘回数を確保できるようになる。
 3移動力を設定すると、状況はかなり変化する。歩兵も1へクス移動して攻撃が可能となり、移動する前線に対応して連続的な攻撃を実施できるようになる。さらに重要なのは、装甲部隊は1へクスのZOC間移動をしてからの攻撃が可能となり、敵戦線に存在する空隙へクスへ装甲部隊を浸透させて攻撃することが可能となる。
 これと関連して、戦闘システムが良く考えられたデザインとなっている。
 戦闘結果表は、いわゆる後退式となっており、防御側を後退させることは容易だが強制的に損害を与えることは容易でない。しかしながら、ソビエト軍については、後退する時にはドイツ軍ZOCへの後退が一切禁止されており、友軍の存在によってもドイツ軍ZOCへの後退が可能にならない。このため、上述の装甲部隊による浸透の効果は非常に大きく、これによって後退不能となったソビエト軍の撃破が可能となる。したがって、移動力のスライスを大きくすることで戦闘回数が減ったとしても、浸透による退却阻止効果で得られるものの方が大きいことがある。これは個々の戦闘状況によって判断されることになる。ドイツ軍は8移動力もある訳であるから、さらに大きく5移動力と言った設定も、状況によっては乾坤一擲の勝負(risk everything in one attack chance)として設定可能である。これにより装甲部隊はZOC間移動を2へクスも実施できるようになり、ソビエト側が予期しないような包囲攻撃が可能となったりする。もちろん単純な平地移動で5へクスも移動できることにより、大きく離れた戦力を結集して攻撃することが可能にもなる。
9:プレイヤーへの挑戦
 本作は前述したスライスオブタイムの部分の醍醐味が中心となっている。
 スライスオブタイムは、1978年のデサートラットから登場しているにも関わらず、実際に採用している作品数はそれほど増えていない。最大の理由は、プレイアビリティの低下にある。ダブルインパルスにするだけでも1ターンのプレイ時間は、2倍強になってしまうものだが、スライスオブタイム方式ではマルチに切ることができるのでさらにプレイ時間の長大化を招くことになる。特に、スライスの大きさをどのくらいにすれば良いかを考えるだけでも、慣れるまでは結構な思考負荷が掛かるので、それがプレイ時間の増大に拍車を掛け、プレイヤーの疲労感をも増す。と言うわけで、非常に興味深いシステムでありながら、残念ながら採用は広がらなかった。
 本作ではバルバロッサキャンペーン全体を扱っていながら、大胆なスケール設定でマップの大きさをB4、総ユニット数を80、全ターン数を9ターンに抑えてしまったことでプレイアブルな範囲にゲームをデザインしている。これによって、本作は古いワインを新しい皮袋に盛ることに(old wine in new bottle)成功している。
 特にドイツ軍は、こうしたシステムを運用しながら、ゲーム全体の勝利をどのような方策で達成するかを設計して最初から最後まで一貫して遂行する必要がある。具体的には終了時の都市の占領により両軍の勝利得点の多くは決定されるので、終了時点でどこまで都市を占領し維持するのかの見通しを立てる必要がある。この時にドイツ軍の全滅ユニットはマイナス点となるので、どの程度の損害まで許容可能かを判断し、それを踏まえて途中の戦闘の判断を的確に行っていく必要がある。
 本作の一つの妙味は、バルバロッサ作戦の最初の1年間しかプレイさせないことで、問題を単純化している点であろう。ソビエト軍は、1942年に再び発動されるであろうドイツ軍の青作戦を考慮する必要がなく、またソビエト軍の損害は勝利得点に換算されないため、損害については1941年中に戦線が崩壊しない限りにおいて理論上はどこまでも許容可能である。この切っても痛まない肉を使って、戦線をどう支えてドイツ軍に目算した得点を実現させないかに集中させている。ゲームシステムの積極的な運用の権限も、その成果もドイツ軍に帰属しているが、だからと言ってソビエト軍に勝算がない訳ではないという風にゲームができている。実際、1、2度プレイした範囲では、ドイツ軍が勝利するのは容易でないように思われる。しかし、その容易ならざるチャレンジこそが、プレイヤーに与えられたエキサイティングな課題だと言える。
10:関連ゲーム
 GDW:ホワイトデス
 本作は非常に成功していると個人的には思うが、ゲームジャーナル旧版は出版部数が少なかったこともあり、それほど商業的に成功したとも、ゲーマーの間で圧倒的な支持を得たとも言えなかった。結果として、目下のところ本システムのさらなる中村デザイン作品は登場していない。