ゲームレビュー:銀河大戦記

毎月一つくらいずつと思っていたが、2月は忙しくなりそうで見通しが立たない。
ということで余力のある今月の内にもう一つ英文ゲームレビューをやっておくことにした。

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1:ゲームタイトル
銀河大戦記 Victory in the Galaxy / Tactics

2:ゲーム出版社
ホビージャパン発行のゲーム雑誌「TACTICS」68号の付録ゲーム
「銀河大戦記」は月刊時代の「TACTICS」の付録ゲームです。しかし、当時、ウォーゲームとRPGの号が交互に発行されていた内のRPG側に添付されました。このため日本のボードゲーマーでも多くの人は本ゲームの存在に気付くことすらできませんでした。同人版「ゲームジャーナル誌」のSFアニメ特集号(48号)で、このゲームが隠れた傑作として紹介され、それ以来、SFゲームファンの間ではその価値が再認識されました。

3:ゲームデザイナー
岡本博信
岡本氏はフリーのライターとしてTACTICS誌にゲームを寄せていたと思われますが、詳細は不明です。この作品と前後して、「ガイアース英雄伝」、「クスバルセスの影」などをTACTICS誌に発表し、TACTICS誌の低迷期の付録ゲームを支えた一人となりました。ファンタジー、SF、ホラーと相次いで異なる題材で、プレイアブルでユニークなタッチの作品を立て続けに発表したのですが、その後はゲームデザインから遠ざかったようで、名前を聞かなくなってしまいました。クトウルフ神話の日本中世版のソースブックを日本独自に編集したものがあるそうなのですが、そちらのメインライターもされていたようです。その意味では、元々はRPG畑の方で、その都合もあってTACTICS誌のRPG側の号の付録ゲームと言うことになったのかも知れません。

4:ゲームテーマ
銀河帝国の拡張競

5:ゲームスケール
ゲームマップ:星系単位、二次元方式で抽象的に銀河の中核部分を表している
ユニット:おそらく艦隊規模
ゲームターン:1ターン=●●年くらいか

6:ゲームコンポーネント
マップ:フルマップの2/3の大きさ、フルカラー
ユニット:別売でハードボード打ち抜きの駒が販売されていた、フルカラー、総数200

7:ゲームシークエンス
 順番フェイズ
 移動/戦闘/制圧フェイズ
 勝利条件確認フェイズ
 生産/開発フェイズ

8:特徴的なゲームメカニクス
雑誌の付録ゲームと言うこともあり、マップのサイズも少し小さく、ユニット総数もカウンターシート1枚にまとめられています。しかし、その中で上手にガジェットを盛り込み、またパノラマ感も出しています。
マップは同心円的な構成になっていて、各プレイヤーは外周の母星系一つだけからスタートします。勝利条件は銀河中央に自らの母星系を移転することです。
マップは決して広いとは言えません。ところが、プレイすると、広大な印象を与えるようになっています。その理由は、ゲーム開始段階では、プレイヤーの1ターンの移動は、1つの星系を指定し、そこの自軍艦隊を隣の星系に移動させることだけに限定されているからです。このため、1ターンには1星系ずつしか版図は広がりません。技術開発により、やがて1ターンの行動能力は大幅に拡大していきます。しかし、それでも他のゲームに比較すると行動の規模は非常に制約されており、小さなマップを広く感じさせることになっています。
こうした非常に制限された状態から、行動能力を拡張していくものが技術開発です。このゲームでは、前述した通り版図が広がるのが遅いため、ゲームプレイでは資金力もなかなか伸びません。その中から工面して技術開発投資を行うことになります。特に序盤では資金はきわめてタイトなのですが、それでも上述のような極めて限定された行動能力を拡張することの効果は大きく、早く良い技術を開発すれば他プレイヤーに大きく先んじることができます。
開発できる行動能力は、他のゲームに比べると一読すると大人しく感じられます。ところが上述のように、デフォルトの制約が一般的なゲームの概念と比べて極端なまでに厳しいので、ちょっとしたことでも大変な威力を持っています。
たとえば、一つの星系から複数の目的地へ分散して移動できるようになるという能力は、普通のゲームでは特別に禁止されていることなどなく実施できて当前です。しかし、1つの星系から1つの星系へしか移動できないこのゲームでは、これだけで一気に版図拡張の速度が数倍してしまうのです。
上記は典型的な例ですが、ほかの能力も同様です。他のゲームであれば、どうということはない能力が、このゲームでは重要なインパクトを持っています。このため、どの技術を開発するかで、各勢力の個性は大きく異なるものとなるのです。このへんの感覚は、SFゲームとしての醍醐味そのものでしょう。
やがて成長した勢力同士が中央でぶつかるようになります。その頃には、それぞれが技術をいくつも身に付けており、スーパーパワーとなっているはずです。実はそれでも普通のゲームで当たり前にできることをできるようになっただけです。しかし、このゲームではそこに至るまでの過程に重みがあるので、正にバトルオブスーパーパワーと感じられます。
このあたり実に上手にデザインされているように思います。
マルチプレイヤーズゲームの陣取りものは、足の引っ張り合いで泥沼化しやすいのですが、このゲームはそれにもある程度の対策を打っています.
一つは、勝利条件が母星の中央移転だということです。このため、他プレイヤーの全滅などという設定と異なり、ある程度の収束性が生まれています。勝敗を争う両者の母星が互いに中央に接近してくれば、いよいよクライマックスということになります。
もう一つ、上述したような技術開発で勢力間の力の差が生まれやすいということがあります。このため、同じくらいの力で同じくらいのことができる同士でぶつかり合うマルチゲームより、ずっと決着が付きやすくなっています。
とは言え、少し惜しいのはCRTがブラッディなことです。このため大勢力同士でぶつかると両者壊滅ということが起こりやすくなっており、これで弱者が息を吹き返して泥沼化しやすくなっています。
このため、綺麗に勝ち切るプレイヤーが中盤で出ないと、銀河は泥沼の大戦に巻き込まれていくことでしょう。もっともこれにも対策があって、プレイヤーの人数分のバーサーカー(暴走最終兵器)が登場すると時間切れで判定に持ち込まれることになっています。バーサーカーは、開発の過程で偶発的にできてしまうもので、登場するとランダムに星系を攻撃します。バーサーカーのリスクはそれなりに大きいのですが、このゲームでは前述した通り開発成果の威力が非常に大きいので開発を避けて通ることはできません。

9:関連ゲーム
銀河中央を目指すという目的と、バーサーカーが登場するという点で、AHの「アメーバウォーズ」と似ています。
エポックの「銀河帝国の興亡」は、日本製のマルチプレイヤー図のSFゲームとして、いろいろと比較されます。