太平洋戦争は、南北戦争から程無くして南米のチリと、ボリビア+ペルーの間で戦われた戦争。ラテンアメリカの戦争は、どうしてもスペイン語資料が中心なので、英語記事でさえ、それほど詳しくは書かれていないことが多い。その意味で、今回のS&Tの巻頭記事のロメロの書いた「太平洋戦争」は貴重だ。特に軍事的な情報についてはウィキペディアなどでは書いていないことまでカバーしている。
その一方で、戦争の要因となった政治経済の背景などはあっさりしていて、そこはウィキペディアの方が充実していたりする。また、チリとペルーの戦争と言って良いのだが、資料記述者がどちらの視点に立っているかで書きようが違うので、複数の資料を読んで中立的な議論ができるようにしたいのだが、その意味でもロメロの記事が新たに加わったのは大きいと思う。亡くなられた越田先生に是非一読してもらって感想を聞かせてもらいたかったと思うのは筆者だけだろうか。
さて、繰り言を言っても仕方がないので、代役には成りえないが簡単に太平洋戦争の背景を見ておこう。
南米の中では、パラグアイが政治的安定と軍事システムの確立で抜きん出ていたと言うのは三国同盟戦争の時に書いたかと思う。パラグアイに次いで優等生だったのが、実はチリなのだそうだ。このチリが資源として着目したのが、ボリビアとの国境地域アントファガスタで得られる硝石である。窒素を経済的に化学固定できる技術がなかった時代にあっては、硝石は貴重な肥料、火薬原料であり、輸出資源として大きな価値を持っていた。チリは、イギリス資本の援助を受けて採掘事業を開始し、輸出を開始した。
ところが、この地域はボリビアとの領土問題係争地域で当時はボリビア領と言う建前になっていた。チリはボリビアとの間で、この硝石事業に対する課税優遇措置を協定して事業を進めていた。しかし、この事業の収益性に目を付けたペルーがボリビアと秘密協定を結んだ上で、同事業に対する課税を強化する策に打って出た。これが直接のことの発端である。
チリは、直接の課税国であるボリビアに対して宣戦布告、アントファガスタに軍隊を上陸させ事業保護に当らせる。さらに、内陸へと続く鉄道、北へ続く海岸線の港湾を順次占拠していった。
と此処からはロメロのS&Tの記事の軍事アクションの詳細へと続くことになる。
軍事アクションに関する主戦場の概況地図は、非常に要領よくまとめられているので、本文まで読む余力がない人でも概況地図だけでも瞥見すると戦争の史実展開が掴める。