○ぼくらは都市を愛していたを読む

bqsfgame2013-09-12

SFが読みたい2013をチェックして読む本として、「本にだって雄と雌があります」、「都市と都市」に続いて3冊目。前の2冊がいずれもガッカリだったので、ドキドキしながら読んだが、一応の合格点。ただ、特別に面白いとまでは言えず、「SFが読みたい」の存在意義については疑問を感じざるを得ない状況だ。
3.13を受けての書下ろし長編と言うことだが、あまりそこを強く主張する必要はない作品だと思う。むしろ、懐かしい大作「猶予の月」を思わせる。現実の肉体が存在していて、精神はそこに宿る‥のではなく、精神が存在して意志の力で現実を駆動していると言う設定が共通している。
ただ、いきなりそこに辿り着くのではなく、冒頭は「情報震」なるデジタルデータを破壊する新しいタイプの災害で無人化した東京から出発する。結果としてハードウェア的には破壊されないまま人間がいなくなった都市と言う存在が描出される。此処を舞台に、実は都市と言うのはハードウェアがあってそこに人間が宿っているのではなく、そこにいる人間が都市と言う存在を都市足らしめているのではないかと言う考察に至る。そこから前出の「猶予の月」に似た話しになっていく。
この話しは複層化していて、無人化した東京で任務を続ける情報部隊の士官の姉と、東京で殺人を犯した記憶を持つがそれが本当にあったことかどうかが不確かな弟の物語になっている。後者は筆者の苦手な典型的な警察小説になっている。これが読みにくい理由の一つだろう。繰り返される殺人シーンの記憶には、いささかうんざりさせられる。
もっと情報震と戦うSF側面を強調したストーリーだったら傑作になっていたのではないかと思うのだが。