○バルバラ異界を読む

bqsfgame2016-07-10

日本SF大賞受賞作。
日本の、と言うより世界の萩尾望都の新たな偉業。
非常に精密な構築物で、かなり判りにくい。理由は4つのフェイズが混在していること。第1は、現在の現実。ここが全体のクロッシングポイントにもなっている。
第2は、青羽が夢見ているバルバラという島の物語。当初は眠り続ける少女の謎の夢という見掛けから始まる。
第3は、青羽とキリヤのバルバラが干渉している現実の未来。夢の存在であるはずのバルバラが現実側に干渉していると言うことは、物語の後半で明らかになる。
第4は、青羽やキリヤの現実における過去の繋がり。子供たちだけの問題ではなく、そこには若返り研究を巡る人々の錯綜した関係が含まれている。
そんな訳で、場面が非常に多岐に渡っており、そのスイッチングも頻繁なので、読んでいて判りにくいこと夥しい。きちんと読書ノートを作るなり、連載時なら毎回分を何度も読み返すようにして読み進めるなりしないと全体像から置いて行かれてしまう。
ただ、読みにくいから出来が悪いかというと、そういうことではない。
また、上述したフェイズ以外に、若返りの遺伝子と関連して、短命だが種の記憶を持つにいたった火星人の物語が登場する。かくて、物語は初期作品「スターレッド」を思わせる要素も含んで一旦の幕を下ろす。
日本SF大賞の打率は18打数8安打。