×ヨナ・キットを読む

bqsfgame2014-01-10

英国SF協会賞の受賞作品。
伝説のサンリオSF文庫から、「マーシャン・インカ」と相次いで出版され、日本に最初にワトスンが紹介された作品の一つです。
四半世紀ぶりに読み直しましたが、昔も今もつまらないです。端的に言って、ストーリーの体を成していません。
イデア自体は面白い物が多く、一つ目の軸はソビエトが実施している人間の意識を別の生体に摺りこむ実験になります。で、宇宙飛行士の意識を6歳の少年に摺りこんだのですが、なんとこの少年が日本を経由して亡命しようとします。で、米ソの国際問題となり、さらに日ソの漁業交渉トラブルにもなります。で、ソビエトはこの技術をクジラに応用しようとしており、それはクジラを原子力潜水艦に代わる戦略兵器に仕立てようと言う陰謀に繋がっていると推測されています。ところが、流体の中を三次元的に泳いで暮らしており、手がないクジラの空間認識やコミュニケーション言語は人間と余りに異質で、このコミュニケーションの問題が発生してきます。
二番目の軸は、ノーベル賞天文学者ハモンドが、銀河中心の向こう側の死角に入っている別の小銀河が天文学的に言う近い将来(人間的には遠い遠い将来)に我々の銀河と衝突することを発見すると言うものです。この発表が引き起こす絶望は神学論争に発展します。また、計算結果を検証するのに、群れで思考回路を組んでいるクジラに前述の研究成果を利用してデータを送り込んで再計算させようとします。ストーリーらしいものがあるとすれば、この部分だけで、結果としてクジラたちは未来に絶望して集団自殺を始めてしまいます。この集団自殺の話しと絡んで、日本の三島由紀夫の自決の話しが出てきたりします。
全体として奇想系の作品ですが、物語の体を成していない構成なので読んでいてドライブ感がゼロです。解説で山田和子さんがワトスンの物語構成力についてヨイショしていますが、ちょっと無理筋では?
それにしても趣味が良いことで知られる英国SF協会賞らしからぬ受賞作で驚きます。でも、「スタンドオンザンジバー」を選んでいるくらいですから、こういうヴェクトルもあったのかも知れませんね。ただ、他は訳されていないだけで‥(^_^;