刑事コロンボを見る(13、14、15)

通番13話目は、ロンドンの傘です。
ヒットシリーズとなったコロンボが、ついにスペシャル版(100分)で海外ロケに出ました。スコットランドヤードの捜査方法の視察に行って、たまたま現地で発生した事故死に首を突っ込みます。
マクベスを演じる落ち目の俳優夫妻は、プロデューサーから降板を言い渡され揉みあいになり偶発的に相手を殺してしまいます。作品の定型上、計画殺人が多いコロンボシリーズには珍しい偶発殺人です。
とまれ、死体を彼の家に運んで階段を誤って転落して事故死したように偽装します。ところが、この時に被害者の傘を一緒に持っていくつもりで楽屋番の傘と取り違えてしまいます。
犯人もこれに気付き、傘を楽屋番から取り返しに掛かるのですが、その挙動でコロンボに怪しまれてしまいます。
一方で取り違えられた傘は故人の蝋人形を飾るために蝋人形館へ。犯人はリスクを犯して蝋人形館の傘を入れ替えます。間一髪で入れ替えた所へコロンボたちがやってきて、傘が違っているはずと確認しますが既に正しい傘に。見込み違いに頭を抱えるコロンボ
で、どうするかと思ったら、最後のシーンでは犯人を蝋人形館に呼び出し、殺人現場にあった傘には、現場でもみ合った時に切れたネックレスの真珠が入っているのではと示唆します。蝋人形館の支配人が持ってきた傘を開くと、そこから転がり落ちる一粒の真珠。
お見事と見えますが、スコットランドヤードのデューク部長が尋ねると、コロンボは真珠を弾いて花瓶に入れて見せます。「やったな」と苦笑いするデューク部長。
メインの流れとは別に、被害者の執事、タナーが渋いです。いかにも英国紳士にして忠実な執事と思わせますが、コロンボの挙動から殺人の真相を見破り、争点となるのが傘だと察知。傘の件で犯人たちを強請って、再就職先を確保します。紳士とは食えない種族です‥(^_^; しかし、重要な事実を知る人物は犯人から危険視され殺されてしまい、殺人事件の犯人に仕立て上げられてしまいます。この辺のインターミッションも丁寧に描かれていて、いつもより長い寸を薄味にならないように仕上げています。それでも、全体的に場面転換時のロケ撮影シーンの見せ方が長かったりして、若干間延びした印象はあります。初の海外ロケと言うこともあってか、人気のあるエピソードのようですが、倒叙ものとしての切れ味がある訳ではなく個人的には推しません。
通番14話目は、偶像のレクイエムです。
この話しは再見しても難しいです。落ち目のスターであるノーラが自分の秘書を殺すのですが、その時の仕掛けとして秘書ではなくゴシップ記者のパークスを狙った犯人が間違って秘書を殺したように偽装すると言うものです。冒頭の犯行シーンでは、こうした意図が説明されないまま犯行が行われるので、見ていてどういう意味があるのか良く判りません。後日の取り調べが始まって、「そうかそういう偽装なのか」と判ってきます。で、録画だと便利なのは、判った所で冒頭場面を見直すと、なるほどタイヤの空気を抜いていたり、帰ってきた車が出た時と違う青のスポーツカーなのに気付きます。これは再生復習できるからなので、昔見た時には何のことやら判らなかったのは無理ないかと思いました‥(^_^;
で、パークスが握っている自分のゴシップを自発的に公開し、自分にはもうパークスを狙う理由がないと示す。その後、パークスを轢き殺そうとして、真犯人の狙いはパークスだったと補強すると同時に、自分はもうパークスを狙う理由がないから別に真犯人がいると思わせようとする。
基本的にこの回は、この取り違えを巡る駆け引きが主眼で、此処が理解できないと何処が面白いかわからないまま終わってしまいます。そこの部分の見せ方が、あまり上手く行っていないと思うのでザンネンな気がします。
ノーラを演じるのはアン・バクスターで、古すぎて筆者は知りませんが「イヴの総て」で大女優を利用してのし上がる付け人の野心家若手女優を演じてアカデミー主演女優賞候補になった人だそうです。凄いのは、この時の大女優役のベティ・デイヴィスを相手にプロダクションの伝手を総動員して主演女優賞で猛追し同じ映画で票が割れたために受賞を逃したと言うのが実話だと言うことです。助演女優賞では駄目だったのでしょうか?
さらに、後に同作が舞台化された時には、利用される大女優の方を演じて見せたと言うから、なかなか凄い人です。そうしたエピソードを踏まえて、コロンボでの役は良くぞ受けたものです。
ちなみに劇中でアカデミーを何度も受賞している衣装担当が出てきますが、これはバクスターやヘプバーンと組んで本当にアカデミーを8回も受賞したイデス・ヘッドが実名で登場しています。そういうことを踏まえて見ると、バクスターの全盛期を知るオールドファンには興味深いエピソードなのかと思います。
通番15話目は、溶ける糸です。SFファンとしては嬉しい驚きだったミスタースポックことレオナード・ニモイの登場です。冷静沈着な外科医役です。冷静沈着なのはヴァルカン人譲りでしょうか‥(^_^;
外科医なのですが、一緒に新薬を共同研究している主任教授が新薬の発表を許可しない。で、主任教授の心臓病の担当医師であることを利用して溶解性の糸で心臓弁を縫うという故意の医療ミスと言うか殺人を試みます。ところが、オペ看護師に疑問をもたれてしまい、これを撲殺します。警察が入ってくるのは、この事件からです。この事件に関する調査でコロンボにしつこくされて、第3の犯罪を起こします。彼女が麻薬中毒患者にモルヒネ横流ししていて、そのトラブルで殺されたように見せようというのです。そのために、麻薬から立ち直った青年にモルヒネを注射し、彼女の部屋にモルヒネを隠します。しかし、コロンボでお馴染みの展開ですが、最初の犯罪をリカバリーしようとして新たな犯罪をする都度、ボロが増えていきます。モルヒネ注射は、左利きなのを知らずに反対の腕に、彼女は病院では抜群に評判が良くて誰も横流しを信じません。
やむなく最初の犯罪を断念して主任教授の薬に細工して体調を崩させ緊急手術で糸を正規の物に交換します。そこへ立ち入り調査で入ってくるコロンボ。ところが、決定的な証拠になるはずの溶けるタイプの糸が見つかりません。さて!と言うクライマックスです。
このエピソードの特徴は、冷静沈着な犯人が論理的な必要性だけから次々に犯罪を重ねていく所です。で、看護師、麻薬更生者の二人を死に追いやりながら、最初のターゲットである主任教授は自分の手で結局は助けることになると言う皮肉。最後のトリック自体は、それほど切れがある訳ではありませんが、ニモイの演じた悪役像が中心の回です。