☆ボロボロ宇宙飛行士を読む(ネタバレ注意)

日記の日付が滅茶苦茶ですが、リアルタイムでは4月第1週です。
と言うことで、今年の目標の一つに掲げた洋書3冊の1/3をクリアしました(笑)。

洋書:■○○
棋書:■■○○○○○○○○
詰碁:■■■○○○○○○○

それにしてもペーパーバックをちゃんと一冊読み終わったのは久しぶりです。本作は原書で310ページありますから、翻訳されれば文庫本で470ページくらいの少し厚めな感じでしょうか。この厚さを読み通せる根気がまだ自分にあると判って安心しました。
閑話休題
作品の内容ですが、想像と違っていました。
想像していたのは、大気圏を接する双子惑星の間を、中世的な社会体制とテクノロジーの文明が横断するスチームパンク的な宇宙開発物語でした。
で、実物ですが、上記の要素が皆無ではありませんが中心ではありません。
むしろ、架空の惑星の生態系、テクノロジー、社会を丁寧に創作し、なおかつそれを惜しげもなく一冊で破壊してしまうと言う信じられないくらいもったいない作品です。
ハーバートの「デューン」辺りを筆頭に生態系SFと言うべき異世界創造が流行した時期があったのですが、その一角をなしていると言っても良いかも知れません。
特に重要なのは、材料としても燃料としても貴重なブラッカと言う樹木と、毒性を持つ浮遊生物のプテルサです。
そして、物語は、このプテルサが突然変異を起こして毒性を増し、ランド(現在、居住している惑星)での文明の存続が危機に瀕する所から始まります。意外なことですが、この文明の危機を息の長い筆致で丁寧に描いており、その意味では英国伝統の破滅SFの一つと言えそうです。このため、ランドでの破局描写が長く、なかなか宇宙開発な話しにならないのです。
とは言え、最後には生存を賭けてオーヴァーランドへの移民飛行船団が旅立つことになります。それが異世界に無事に到着した所で三部作の第一部である本書は幕を閉じます。
あと、ボブ・ショウの腕の見せ所と言うべき人物造形の彫りの深さも印象的です。主人公、ライヴァルの王子、主人公の兄、美しい兄嫁、主人公のギルドの長など人数はそれほど多くありませんが、その分だけ一人一人の描写が手厚いのが特徴です。なにせ破滅テーマに近い作りなので、中の何人かは生きて結末を迎えられないのですが、一人が死ぬたびに重苦しいものがありました。
あと、天体物理学的な設定が生態系や文明の作りと重要な相関を持っています。で、途中でランドとオーヴァーランドの異質な部分が示されます。「と言うことは‥」と筆者は工学部なので類推していたのですが、最後の1ページの結末は、まさにその通りでした。これが第2部への重要な伏線なんですね、きっと。
と言うことで、第2部もかなり楽しみな感じです。ただ、究極のSFガイドの評点を見ると、第2部、第3部は、第1部よりは落ちるらしいので、そんなに急がなくても良いかなとも思っています。そもそも、ここらへんの年代のペーパーバックは、近年はキンドル再版が普通で、紙ベースでは手に入りにくいのが頭の痛い所です。第2部はまだ普通の値段で手に入りそうですが、第3部になると紙ベース入手が難しいかも知れません。
って、第3部まで読む気満々な訳ですが‥(^_^;
それにしても、英国SF協会賞って、趣味の良いセレクションをする賞だなと、改めて思いました。