コニー・ウィリスのベスト短編集の和訳二分冊の一です。
日本では独自編集の短編集が出ていることもあって、収録作品にかぶりがあります。それでも、ベスト集成がこういうラインナップだと言うことが見える価値も含めて、これで良いのではと個人的には思いました。
最高傑作は、表題作の「混沌ホテル」です。量子物理学の学会が、量子物理学挙動をマクロで示すハリウッドのホテルで開かれているのを描いています。混沌系挙動を示すホテルの予約システム、シュレーディンガーの猫を地で行く各種予定イベントの開催状況。判っているかのようなことを言う偉い教授方も、本当はちっとも量子物理学を判っていないんだよと言う暗示。
量子物理学の、非ニュートン物理学的な挙動に混乱した経験のある人なら大いに共感すると思います。こういうバリバリの理系的なガジェットのSFまで書けるのはウィリスの凄い所です。
その対極に位置するのが「魂はみずからの社会を選ぶ」です。エミリー・ディキンスンの独創的な詩を拡大解釈してマサチューセッツ州にもウェルズの宇宙戦争の火星人が来襲して、ディキンスンに撃退されていたことを証明すると言う論文です。ウェルズは出てきますが、バリバリの国文(米国にとっての)小説です。
「まれびとこぞりて」は、ファーストコンタクトテーマなのですが、全編が聖歌隊のクリスマスソングでコンタクトを試み続けると言う異色作。この作品は、「航路」にも通じる男女の主人公の謎に迫る上での焦燥感が見せ場です。時間制限は厳しく、周囲の無理解な人々の妨害は激しく、とても解決不可能に思える中を必死にもがいて努力する感じは良く似ています。ウィリスの持ち味の一つであることは疑いありません。
「インサイダー疑惑」は、言ってみればTVドラマ「トリック」のような「どんと来い超常現象」なトリック破り物です。ただ、この話しは非常に人を食っていて、チャネリング否定の懐疑主義者の亡霊が実際にチャネリングしてしまったと言う設定になっています。それとは全然別に、実は単なるラブコメだと言うのも人を食いまくりです。ウィリスの引き出しの多さを見せる一作です。しかし、ちょっと寸が長すぎるか?