☆いずれすべては海の中にを読む

 竹書房文庫です。

 サラ・ピンスカーの日本での2冊目。でも、アメリカではこちらが先に発売され、PKディック賞も受賞しました。

 割と骨太な作品が揃った好短編集です。

 「オープンロードの聖母様」

 長編化された「新しい時代への歌」の原型短編。ただし、作中人物の年齢からするとこちらの方が作品世界内時間では後になります。長編も良かったですが、本作に長編の魅力は既に全て認められます。

 「イッカク」

 くじら型に改造した車を運転してアメリカを横断するロードムービーのような一作です。前作もそうですが、こうしたアメリカンロードムービー的なテイストにピンスカーの魅力は良く発揮されると思います。

 「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」

 コニー・ウィリスの「混沌ホテル」を強く連想させる一作でした。

 多元宇宙を渡る方法を発見した人物が、自分の並行存在を一堂に集めてコンベンションを開くというような話しです。量子現象を発現しているホテルを描いた「混沌ホテル」のテイストを持つと同時に、どことなくSF大会みたいな雑多な賑わいのイベントが魅力的に描かれています。

 「いずれすべては海の中に」

 表題作ですが、本書を代表するようなインパクトやボリュームはありません。なんらかの災厄後の世界、文明が海に飲み込まれた時代に豪華客船に乗って生き延びる人々を描いています。これもある意味で「新しい時代への歌」にどことはなしに通じる世界観の作品です。もっと長くても良いのにと、少しもったいなく思いました。