野村克也追悼特集の最後です。
野村監督の野球論は、まず「人として」、「社会人として」、「プロとして」の順番に入っていき、それは野球以外を生業としている者にも響く普遍性を持っています。
本書は趣が違っていて、「プロ野球選手として」の側面が色濃く出ており、技術書としての価値が高くなっています。筆者も高校までは草野球をしていましたが、率直に言ってこのレベルの技術書を納得感をもって読むには程遠いです。
とは言え、それでもプロ野球観戦者の一人として読んでも、結構、面白い部分も多々あります。
p122
四球で歩かせることは、最悪だ。以前耳にした米大リーグの統計によれば、先頭打者に四死球を与えたときの失点率は「7割以上」
p124
王貞治は「失投は必ず来る。そう信じて待つ」とシンプルに考え、じっと狙っていたという。
p295
重要なのは、「バットが無駄な軌道を走らないこと」だ。(中略)
1:ステップした足に体重が掛かり過ぎないこと
3:「壁」をしっかり保つこと。力まず、急がず、捕手側の腰をボールにぶつけるイメージで振る。
5:バットが地面に平行になるように振るのがレベルスイングではない。ボールとバットの芯がレベルであること
6:ステップしたとき、頭が突っ込んだり、体が流れたりしないこと
7:バットを強く握りすぎない。体全体の力を抜き、膝を柔らかく保つ
p344
走塁は、フォアザチームの精神を測るリトマス試験紙(中略)
「走る」ことは、足が速く、盗塁を稼げる選手以外は「領域外」と思いがちだ。それは断じて、違う。(中略)
特にリードは、誰にでも大きく取れる方法がある。「帰塁」だけを考えればよいのだ。
大きなリードは、投手に余計な神経を使わせることになる。コントロールミスや、悪送球を誘うこともあるだろう。バッテリーの配給も、ストレート系中心になるだろう。それは打者にも絞りやすくなり、プラスの結果と出よう。
p371
ブレイザーに「エンドランのサインが出たら何を考える?」と聞かれた。(中略)
「大事なことを忘れている。二塁のベースカバーにはショートとセカンド、どちらが入るのか。まずはそこだ」
ベースに入る方を知っておき、守備の空く方向を狙えば、安打になる確率は格段に高くなる。
当時としては、目からウロコだった。
p411
個人成績を上げれば、チームの成績も上がる。この考えは一見、当っているようで間違っている。勝利優先のプレイに徹した結果、個人成績も上がる。これが正しいプロセスである。
p411
プロとアマの指導者の姿勢には、これほど差があるのか。(中略)
残念ながら、アマ側の熱心さと謙虚さの方が、はるかに上だった。
特に興味深かったのは、ブレイザーのエンドランに関する質問です。大リーグでは最初に考えることを、日本では野村でさえ考えも及ばなかったというのですから、当時の野球と言うスポーツに対する日米の取り組み方の差を痛感させられます。
また、フォアザチームのプロセス評価を重視すべしというのも興味深いものがあります。会社でも営業成績トップの営業マンを高く評価しがちですが、それを実現するための商品開発部門や納期遵守のための生産計画・出荷部門などの裏方をどれだけ評価しているかで会社の見識が問われるように思います。
王選手の「失投は必ず来る」と信じて黙って待つ姿勢もなるほどと思わされました。他のスポーツや、私事ですが囲碁でも、そういう辛抱が効く人と言うのは恐ろしいものです。