☆キスギショウジ氏の生活と意見を読む

 竹書房文庫の草上仁その2です。

 SFAと野生時代に掲載され未収録のものをズラリと集めています。本書編集中に作者から送られてきた一編を巻末に加えて全19編です。

 ネタバレ注意。

☆十五パズル

 懐かしい十五パズルです。4×4の枠に16枚のピースが入っていて、1枚を抜いて、その空間を利用してピースを移動して1から15までを順番に並べるというものです。

 それをモチーフにして宇宙空間で居住区を移動させている宇宙都市の話しを書きます。日々ブロックが移動してしまうので、迷子、行方不明などが続出します。もっと切実なのは行方不明になった方で、いくら探しても自分の家を見つけられないのです。

☆記念品

 歌手を売り込むプロダクションの話しです。歌が売れなくなってくると、歌手そのものを切り刻んでファンに高額で売りつけるという商売をしています。熱狂的なファンが、歌手の衣装のボタンを千切って持って行くのをヒントにして、ついには指を切って売り、さらには臓器も売るようにというシュールな話しです。

 歌謡業界が不況に成るにつれてそのサイクルは早くなり、今や半年で影も形もなく売りつくしてしまうというのです。

〇飛び入りの思い出

 宇宙を流しているバンドが、演奏家の飛び入りで覚醒して最高の演奏をしたという思い出の話し。

☆お別れ

 これも怖い話しです。別れたい人がいるなら絶対に効き目があるというお守りを受け取ると、髪の毛とお別れしたり、もっと重要な臓器とお別れしたりすることになるというお話しです。

〇毒虫

 カフカの変身をオマージュしています。なぜ、彼が毒虫に変身するに至ったかの前日譚と言う趣向です。

☆お父さんの新聞

 新聞を配達してもらうのに前夜に花を玄関に出しておく必要がある異世界です。新聞蝶は、花を目印に飛んできて配達されるのです。ぼくはそれを忘れてしまい、でもお父さんが新聞を読む時間までに新聞を調達しようと奮闘します。すると、新聞蝶は青虫の間に活字を食べて、それによって記事を写植して新聞蝶に変態して飛び立つのだということが判ります。

〇ダイエットペット

 サナダムシダイエットの応用で体内に寄生虫を買うことでダイエットするという話しをどんどん延長していく話し。

公聴会

 製造者責任を神様に適用しようとする人間たちが怒った神様に消されてしまうショートショート

オーバードーズ

 オンラインゲーム中毒で引きこもったまま死んでしまう者が続出している世界。

☆国境の南

 氾濫して毎年のように流れを変える川が国境となっている国。

 お互いに入国禁止なのだが、川の流れの変化を予想して輸出品を埋めて置き、氾濫後に対岸の同業者に掘り出してもらうという合法的な密輸方法を成立させた。

 ある年、亡命するために自分を箱に入れて埋めてくれと言う依頼が舞い込み、本当に埋めてやるのだが、男は対岸でも此岸でもない場所に辿り着く。

☆アイウエオ

 尻取りを高尚な対戦芸術として昇華させている世界。その名人戦の様子を念入りに描写する怪作。

〇われらの農場を守れ

 父が都会に出て捨てた祖父の故郷を訪ねると、そこの自然はモンスター級の生物ばかりだという話し。

☆鉄の胃袋

 カシノ惑星に潜り込む鉄の胃袋と呼ばれる潜入捜査員の話し。

 カシノでは麻薬をホストの胃に潜り込んで直接注入する生物が最高級品として取引されており、その生物を本当に胃袋を鉄製に換装している捜査員が捕獲するという話し。

☆OEの謎

 ダイイングメッセージ「OE」の謎を解く、いわゆる出オチみたいなショートショート。しかし、それを引き込んで読ませてしまうのが草上仁の芸。

〇文通

 手紙を通じて危険なものを送り合うという関係。その開けるときのスリルと、もっと危険なものを送ってやろうと考えることが既に生き甲斐になっている。

〇ブラボー

 映画「スピード」のバンド版。ステージに爆弾が仕掛けられ、拍手喝さいを受けると爆発してしまう。そこでバンドはこれでもかという酷い演奏をしていくのだが、それが前衛音楽としてバカ受けしてしまい、事態はますます悪化していくという話し。

〇家庭の幸せ

 業界でも恐れられる殺し屋が整形手術をして平凡な生活を目指し、地味だが可愛い女性と恋仲になり結婚し子供ができる。しかし、実は‥。

☆キスギショウジ氏の生活と意見

 表題作、本来は巻末だったはず。

 駅のトイレに入ると、いつも特定の個室が必ずドアが閉まっていて使用中なのが気になって気になって仕方がなくなる。ある日、思い切ってノックしてみると、中から返事があり扉を開けてもらえた。なんと男はそこで常時生活しているのだという。

 ここまでをこれでもかというくらいに丁寧に描き出して引っ張って置き、どうやって落とすのかと思ったら、絶句する結末が待っている。

△R依存症対策

 オーバードーズとネタがかぶっている書き下ろしショートショート

 正直に言って、これは少し弱い。やはり表題作が巻末で良かったのではないだろうか。