☆南極大陸を読む

 25年ぶり。今回は和訳で読みました。

p43

 ‥彼はカレッジの映写室で「南極のスコット」を見てからというもの、スコットの足跡をたどることに人生をささげた。苦難の連続は承知のうえでの決意である。彼はしかし固執し、ここに足跡熱が生まれた。

p44

 このようにして、ジョージはすべての物品をもとあった場所にもどし、その近く(「ただし、カメラのファインダーの外」とエリオットはいった)に、保存・展示用の木造小屋を建設する許可を勝ちとったのだ。

p47

しかし、ジョージの努力の最大の成果は、何といってもペンギンの三つの卵の殻だろう。これは当初、チェリー・ガラードがイングランドサウスケンジントン自然博物館の無関心な保管人に託したもので、その後ジョージがエディンバラ大学の標本棚を徹底的に調べまくり、いまここに、こうやって展示されている。

p59

ここワシントンDCは熱波につつまれ、気温46℃、湿度は100%に近い。窓の外では、街のあげる咆哮があたりをうだらせ、首都の隅から隅までが蒸し風呂と化して、このところの異常気象に早くけりがつかないものかといらだっている。

p150

 でも、ここの環境は、寒さのせいできわめてデリケートなんですよ。おまけに、キャンプ地の廃物や人が残したゴミは、今後何世紀ものあいだ、そのままそこにありつづけるでしょう。南極探検初期のころの補給所がいまなおあるなんてすごいことですよね。アムンセンやスコットがそれを残したのなら史跡ということになりますが、先週やってきた観光客が残したものは、ただのゴミくずでしかない。

p151

「‥それでもASL社はきわめて順調で、観光ビジネスの90%を占めているといってよいと思います。環境を破壊せず、ここの運営費の足しにもなる。一挙両得ってことですね。大勢の観光客を南極に呼びよせることには、当然、反対する声もあります。けれど、ここの観光客は来るべくして来るような人ばかりですから、どうせなら、そういった訪問をコントロールできたほうがよいでしょう」

p187

 ところがスコットの決断は、あまりにも遅すぎました。引き返すかどうかは、彼の判断によります。十二月のはじめごろ、シャクルトン壊血病の症状があらわれていること、残りのふたりも時間の問題であることをウィルソンから警告されていたというのに、それでもスコットは、新年を迎えるまで南進をつづけました。

p188

 そしてとうとう、スコットとシャクルトンはぶつかりました。シャクルトンとウィルソンがソリの荷づくりをしている横で、スコットがこう叫んだのです-「ちょっとこちらへきたまえ、ばか者!」そこでウィルソンが「わたしにいったのですか?」とたずねると、スコットが「ノー」と答えたので、今度はシャクルトンがいいました-「じゃあ、わたしのことですね。でも、探検隊のなかで最悪のばか者はあなたですよ。わたしに向かってそんなことをいうのなら、おなじことばをそっくりお返ししましょう」。

p215

「そう」マイケルソンが察していった。「あなたもご存知のとおりだ。しかし、南極における温暖化の影響は、まだ完全にはあきらかになっていない。まず、温暖化は南極の降雨量を増加させる。雪が多く降るという意味だが、雪は雨ほど温かくない。そこで氷冠や氷河、海氷は、むしろ成長する傾向になる。少なくとも、これが温暖化のひとつの影響だ。すると、ドライ・ヴァレーは以前のように、ふたたび凍っていく可能性がある。進行するのがその点だけと仮定すればの話だがね。実際、いまここにある積雪は‥三十年前のこの季節であれば、まったく考えられなかっただろう。」

p242

 マイケルソンが笑った。「まあ、だからNSFが管理しているのだろうね。ただ、予算は削られていくばかりだ。最近では、火星のほうが注目されている。」

p247

「科学の大陸か」

「ほんとに。科学と、あとは一部”クソして笑う”こと」彼女はそのいいまわしに渋面をつくり、首を横にふった。

「経費が高くつくだろう」

「冗談にもならないくらい。一度ボブが、友達とふたりで研究費用を計算したことがあるのね。南極予算の合計を研究日数で割るの。ビーカーらしい計算の仕方でしょ。そうしたら、研究者ひとり当たり、一日に一万ドルだって」

p248

「‥ねえ、登山のガイドの三原則って知ってる?」

「いいや」

「その1、クライアントはガイドを殺そうとする。その2、クライアントは自分自身も殺そうとする。その3、クライアントはほかのクライアントも殺そうとする」

「すごいな」

p277

 シャクルトンは、スコットよりもすぐれたリーダーでした。また、ソリについても多くを学んでいました。ただ、スキーについてはさっぱりで、ソリを人力で引かざるをえないときにスキーを使わないなんて、なんとも不思議な装備です。ただ、ポニーを連れていたので、補給所への移動はポニーを使い、殺して食料にしたりもしました。後年、アムンセンが犬を利用した方法とおなじです。

p280

 ハントフォードによると、衰弱したワイルドは日記につぎのように書きました-「その日の朝、シャクルトンは自分の朝食のビスケットを一枚、わたしに押しつけようとした。わたしがそれを受けとっていたら、今夜もまた同じことをしただろう。」

p281

シャクルトン個人についていえば、彼は帰宅して妻にこういいました-「死んだライオンよりも、生きたロバのほうがよい」。妻はうなずきました。

p326

 それからは、彼とジムが暴走しはじめた。過去何回もこういった話の脱線を楽しんできたのはあきらかで、ふたりは「スコットとその愚かさ」というテーマでしゃべりまくった。

p420

 部下の隊員でさえ目的地を知らず、ノルウェーを出航してはじめて教えられました。そのとき同時にアムンセンは、スコットにも「南へ行く」と電報を打ちます。このことから、彼が南極点到達を、公平なルールのもとにおこなわれる中世の一騎打ちとみなしていたことがわかりますね。

p441

 ほかの者が氷塊をすぎ、情報のピレイにたどりついてザイルをはずしたころ、ヴァルとジャックは自分たちのハーネスをザイルにつなぎ、ソリの引きあげにかかった。と、そのとき、頭上の氷塊が大きな音をたててかしぎ、くずれ落ちてきた。ヴァルは左のクレバスに飛びこんだ。それが氷につぶされないただひとつの道だった。