総合評価の下がるゲーム:緻密で乱暴なゲーム

デザインの各所に優れたところがあっても、総合評価が下がってしまうゲームがある。
一つのパターンとして「緻密で乱暴なゲーム」というのがあると思う。説明すると、緻密なゲームシステムを持っていて、繊細なプレイや、煩雑なブックキーピングを必要としている。そして、その部分が良く出来ていて面白かったりもする。ところが、同時に同じゲーム内に、そうした繊細なプレイや煩雑なブックキーピングで積み上げたものを一撃で覆してしまう決定的要素、たとえば凶悪なイベントや、強力なカード/ユニットがあり、それが勝敗を運で決してしまう。
こういうゲームを個人的には「緻密で乱暴なゲーム」と呼ぼうと思う。前半の緻密な部分にかなり評価できる部分があっても、総合評価は下がってしまう。
一例として先日書いた「東部戦線」(および姉妹編の装甲擲弾兵)があって、イニシアチブシステムと、シーケンシャルな移動&防御射撃システムでシナリオの前半は凄くエキサイティングで面白い。しかし、最後の勝敗の決着が最終ターン前後のイニシアチブダイスロールの影響を強く受けるので、そこの解せない出目で負けるとフラストレーションが残る。ただ、それでも戦術級ゲームのシナリオの話しなので、また別のシナリオをやっても良いし、再戦しても良いので罪は軽い。また、書いたようにイニシアチブチット(もしくはカード)にすると良くなるかという希望もあるので買いなおそうかと思ったりしている。
罪が重いのは、プレイタイムや準備労力が大きいゲームでこのパターンに嵌ると、個人的には悲惨な気がしている。
一例として「ウィルダーネスウォー」は、カードドリブンの中でも従来型のPCマーカー方式から脱却して戦闘要素を中心に据えた素晴らしいデザインだと思う。これまでのカードドリブンは、PCマーカーの陣取りが主で、戦闘はそれに影響を与える従だった。それを逆転し拠点以外は重要でなかったフレンチインディアン戦争にマッチした新システムをデザインしたエポックメイキングなデザインである。日本では評価が盛り上がらないようだが、個人的には素晴らしいシステムデザインだと思う。しかし、二つの点で総合評価が下がってしまう。一つは、一部に極めて強力なカードがあるという乱暴な部分。このゲームも「繊細で乱暴」な感じがあるのだ。
もう一つはトーナメントシナリオの勝利条件バランスが悪いために、ビッディングでハンディキャップ勝利得点を入札しないと勝敗を競うゲームとして機能しないということ。入札するにはゲームに対する見通しが必要で、初見でのハードルが高くなってしまっている。
強力なカードがあっても良いのだが、競技用ゲームとしての興を削がないためには、
1)相手側に警戒策があり、十分に注意すれば回避するできる
2)使用時に反作用があり、使った側も別の問題をマネージメントする必要がある
などという風になっていないと厳しい気がする。
この話しをしていて思うのが「ハンニバル」で、強力なカードが両者に十分にあるのでボコボコ殴り合うのが楽しい。これはまた別のゲームデザインで、そもそも「緻密」ではないのだろうと思う。「豪放磊落なゲーム」というところか。不思議なもので、ではハンニバルがカード引きゲームかと言うとそうでもない。豪快なイベントの殴り合いの中で、それを柔軟に利用してマネージメントするプレイヤーが勝つように思う。ゲームデザインとは不思議なものだ。