○市長お電話ですを読む

bqsfgame2005-07-16

草上仁さんの短編集。ハヤカワ文庫分を着々と消化中。残りも少なくなった。
「国境を越えて」は、ほとんどSF落語という感じ。行き過ぎた官僚主義保護貿易と機密保持と国家エゴで、これでもかという展開をしていく。風刺が効いていて語り口が面白く、これは本当に落語にして聞いてみたいくらい。
「ポルノグラフィック」はアイデアストーリー。植物文明の人にとっては、花束は‥。
「転送室の殺人」はSFミステリー。魔法の存在するファンタジーのミステリーもそうだが、どうしても架空世界で架空技術(魔法)の存在するところでのミステリーは読み手から見ると反則気味に見えることが多い気がする。「なるほど、その手があったか!」と手を打つような読み方がしにくいというべきか。
「豆電球」もアイデアストーリー。語り口は良いと思うのだが、オチの切れ味はもう一つだと思う。
「市長お電話です」は、世代宇宙船を市として運営している状況での短編。小学校のウサギを巡る市長の決断に、失われていた電話という技術で小学生が市長に直訴するというもの。市長はそれを受けて、本物のウサギを見に行こうと決意する。タッチは意外にもシリアスで、それでいて題材や結末はほのぼのしていて、不思議な感じに仕上がっている。草上作品の中でも見掛けないトーン。
全体としてみると、二つ前の「お喋りセッション」が抜群に良かったので、それと比べると少し落ちるだろうか。もちろんそれでも合格点。