☆影のジャックを読む

bqsfgame2005-12-10

1971年のゼラズニイの長編。サンリオから出版されたのが1980年。
執筆順で言うと、アンバー第一作の「アンバーの9王子」の直後に当り、傾向としては確かに非常に似たものを感じさせる。
端的に言えば、ヒロイックファンタジー風に始まり、途中SFになり、終盤は神話になる。ゼラズニイの様々な魅力が260ページの中に圧縮された傑作だと思う。
暗黒界で勢力を競う7王の一人影のジャックが、他の王に嵌められて首を切られ輪廻するところから物語りは始まる。その過程で他の王から受けた仕打ちに復讐することを誓い、巨大な魔力を開くコルウィニアの鍵を求めて科学の支配する陽光界へと赴く。この地で大学講師をしながらコンピューターで解き明かした鍵を手に暗黒界へと戻り、圧倒的な魔力で他の王を平らげて暴君として振舞う。しかし、7王に課せられた世界の綻びを繕い続ける大約を破り、世界の破滅を招いてしまうのである。
魔法の支配する暗黒界と科学の支配する陽光界を往復する辺りは、二つの世界を行き来するアンバーシリーズや、魔性の子でも用いられるゼラズニイの十八番。単なるファンタジーではない独自のスタイリッシュな魅力に溢れている。
しかし、そこに深入りすることなくサラリと切り上げて次々と場面を切り替えていくところが勿体なくも潔く、終盤は傑作中篇フロストとベータなどを思わせる新しい神話とも言うべき世界が展開される。魂と名乗る分身との和解の物語であり、世界を崩壊させてしまった驕れる神の物語である。
この作品だけでもアンバーと同じように五部作にしてもおかしくないくらいのドラマが盛り込まれている。それをたった260ページしか書かないことで贅肉のないゼラズニイの魅力が凝縮された一編になっている。
余談だが暗黒界の7王は、仮面ライダーストロンガーデルザー軍団を思わせる。影のジャック、こうもり王、ドレクヘイム男爵、不死大佐といった面々が、いがみあいながらも時に協調したり血縁を結んだりしている。影のジャックが鍵を手に入れたことで力のバランスが崩れ、世界は崩壊に向かってしまうのだが‥。
「ロードマークス」も素晴らしいが本書も素晴らしい。サンリオ絶版以来長く入手難になっているのが非常に惜しまれる作品だと思う。