レトロをプレイしたときに痛感するのは、ダイスを振る回数が圧倒的に少ないということである。また、移動や射撃のシーケンスで、相手に割り込まれることがなく、ひどくあっさりと進むのも驚きである。この2点がシナリオAのような単純なシナリオにおいてさえレトロ化によるスピードアップが感じられる主因であろう。
一つ想定をしてみよう。
ASLでのある分隊の平地を横切るリスクある移動では
1)移動する部隊は先ずリスクを犯す価値があるかを考える
2)リスクを分散するためにスタックではなくユニット単位で移動することを考える
3)実際に最初のユニットを移動して見る
4)★相手プレイヤーは防御射撃(一次射撃)を実施するかを考える
5)★実施することにしたので射撃ロールを解決する
6)★射撃したユニットに防御射撃(一次射撃)マーカーを置く
7)効果が出たのでモラルチェックを行う
8)モラルチェックで影響を受けたので必要なマーカーを置く
9)★相手プレイヤーはMGを含んでいたのでROFを確認し、残存火力マーカーを置くかどうかを考える
10)次のユニットを同じルートで移動させるかどうかを考える
11)4〜9を繰り返す
というようなことになる。ユニット数が3個のスタックだったとすると、11のところを2サイクル繰り返すとすれば、トータルな手順は22手順となる。実際は警戒移動、急速歩移動、迂回移動といった移動のオプションもあったりするので事態はもっと複雑である。さらに射撃の結果として狙撃兵活動が生じたりELR判定が生じるとシーケンスに割り込みで処理が発生する。
これがレトロだと
1)移動するかどうかを決断する
2)スタックで移動するかユニット単位で移動するかを決断する
3)ヘジテーションロールを行う
4)ロールに成功したら移動する/失敗したらそのユニットの行動は終了する
5)★相手の防御射撃フェイズになってから相手は射撃をまとめて行う
で終わってしまう。
ヘジテーションロールという概念の導入で、特にASLで複雑化した防御射撃による定常的な両プレイヤー間の相互作用をなくしたのは驚くほどのスピードアップである。
移動中の割込み防御射撃がなくなったので、移動による被射撃修整がなくなった。代わりに平地の地形修整は0ではなくマイナス1になっている。
また、レトロでは射撃結果は数字とKIAで与えられるが、数字はモラル値を示し、自動的にそのモラル以下のユニットは混乱すると言うデジタルな結果となっており、相手のユニットごとにモラルチェックロールをしたりはしない。そのためELR判定はモラルチェックロールで発生しないので、IFTの結果自体の一部として組み込まれて発生する。非常に大胆かつ総合的なスピード化対策だということがわかっていただけると思う。ともすればあっさりしすぎとも思える。
移動側からするとヘジテーションロールをするだけなので、リスクを考えて決断を悩む必要もなくなった。ロールして失敗すれば、プレイヤーの意図は単純に拒否される。そんな命令は無謀であり実行できないと言う決断をしたのは、ヘジテーションロールであり、言い換えるならば個々のユニット(スタック)なのである。これは大胆であると同時にコマンドコントロールとしては、むしろシミュレーションとして妥当な気がする。プレイヤーの意図通りに全てのユニットが動くのは、ウォーゲームが現実に比べてもっとも不自然な2つの要素の1つと言われるが、その問題をあっさりと解決してしまっている。
防御射撃についても、プレイヤーが複雑な駆け引きをベースに考えていたが、レトロ化であっさりと相手の移動終了後の配置を見て、単純にいちばん近くの目標を撃つようになったので現実的になった。咄嗟の行動でありながら複雑な駆け引きを考えて、敢えて近いユニットを撃たずに戦略的な判断に応じて遠くの目標を撃つというのは極めてゲーム的で現実的ではなかったのだが、それもあっさりと解決されてしまった。
以上のようにスピード化、単純化しているが、シミュレーションとしてはむしろ適切な方向に動いている面があり、レトロが高い評価を受けているのが納得できるのである。