☆終末期の赤い地球を読む

bqsfgame2008-02-13

1950年のジャック・ヴァンスの処女長編。久保書店のシリーズ。
解説が福島正実さんだというのも時代を感じさせる。
光を失いつつある太陽を巡る遠未来の地球。そこにはまだ人々が生き残っているが、文明を半ば失い、魔法や魔物が跋扈する暗黒時代的な世界が現出している。作品はこの時代の様々な人物を取り上げていく連作短編的な形で形成されており、前の短編で脇役で出てきたものが次の主役といった具合に繋がっている。
最初の魔術師マジリアンは、大系の多くが失われた魔法の残滓を利用する力のある魔法使いで、さらなる魔法の収集に余念がない。しかし、努力も虚しく彼も力尽きていく。続くトゥーリヤンは合成人間を作る研究をしているが上手く行かず千の呪文を良くするというバンドリュームに知恵を借りるべく旅をする。
怒れる女ツサイスは、トゥーリヤンの作った失敗作で、類稀なる美女でありながら世界を歪んだ形でしか見ることができず彼女の目には世界は醜いもので満ちているようにしか見えない。その定めから逃れるべく彼女もまた旅に出る。
自惚れ屋の無宿者ライアーンの末路を間に挟んで冒険者ウラン・ドールは、古の宗教紛争を今も戦い続けている二つの部族の愚かな対立に巻き込まれる。そこで彼は両者の秘牌を結び合わせ眠っていた太古の末裔を呼び覚ましてしまうが‥。
最後のスフェールの求道者ガイアルは、知識をもとめて今も時代を越えて残されているという博物館を訪ねていく。そこで彼は望みの知識を得るだけでなく、この終末を迎える地球で知識を守る立場も引き継ぐこととなる。
魔法、文明の遺産、異形の生物、奇怪な文化、ジャック・ヴァンスの面目躍如の長編で、これを今まで読んでいなかったのは不覚。惜しむらくは我が家の本は落丁本で途中、8ページほど落丁しているのだが、今から完全本をまた手に入れるのは大変すぎるのでこれで良しとするか。
連作短編という形式も、もしかしたらヴァンスの持ち味に一番あっているのかも知れない。