「攻めに強くなる12章」も良かったが、本書はさらに良いと思った。
大竹流の不思議な強さ、厚みというものの価値について、鋭い示唆を与えてくれていると思う。
第4章で引用される石田芳雄の「厚い碁、百態」が非常に面白い。6人の厚み派それぞれに対する洞察はどれも面白いのだが、特に大竹流に対するコメントとして「厚みの力を局部的にではなく全局的にわたって、そして終局まで見据えて働かせる。(中略)厚みと言う財産を広く長く使うのが大竹流と言えるでしょう。」とされている。
本書でも大竹自身の持論として厚みの見返りを急ぐなかれと書いてあり、「広く長く使う」というところがどうやらポイントのようだ。
どうしても実利的な感覚からすると、厚みと言う不定形の財産を「いつのタイミングで」「どうやって」定型の財産に変換して元を取るのか心配になる。ところが、どうも結論からすると大竹流では「いつまでも厚みのままで持っておいて差し支えない」「自分から積極的に実利に変換する手法を取ったりする必要はない」ということらしい。ただ、厚みのままで持って永く置いておくのが相手にとっては実は一番イヤなもので、模様にして囲うのは効率が悪く、攻めに使ってしまうのもそれほど積極的には薦めないということのようだ。これは意外と言えば意外な結論だ。
この結論を裏書するように、別の章では「私自身の厚みの使い方をご披露しましょう。(中略)碁にもよりますが、だいたいにおいて、厚みを作るだけ作っておいて、あとはなんにもしないのです。」と述べている。
それでどうしてソロバンが合うかと言うのが不思議なところだが、現実に大竹流が多くの勝利を収めている結果を見るとそれで合うということなのだろう。