○分解された男を読む

bqsfgame2009-02-09

言わずと知れた第1回ヒューゴー賞受賞作。
テレパスがいることで、事前に殺意が読み取られてしまうために殺人がなくなって久しい未来世界。その未来世界に置いて殺人を実施する男と、その大胆不敵な犯行を合理的に暴こうとする刑事の物語である。
一種の倒叙形式のミステリーなのだが、なにせテレパスが存在するというので、そこのところの駆け引きの綾はSFならではというものになっている。ベスターのミステリー作家としての展開の妙味、SF作家としてのアイデアが、高い水準で融合した傑作だと思う。
アメリカ本国ではまとまりの良さという点で、本書を「虎よ、虎よ」より高く評価する声が少なくないと言うが、なるほどと納得させられる。まとまりの良さは、少し「こじんまりとした」印象を与える部分もあるが、それにしても傑作だろう。SFが単なるアイデアストーリーでなく、上質のミステリー足り得ることを示し、それでいてしっかりSFらしさを持っている一作で、第一回ヒューゴー賞にふさわしいと思う。
思えば逆に、第二回の受賞作「ボシイの時代」の方がずっと物足りなく、結果としてヒューゴー賞の権威と言うのがスムーズには高まらなかったのかなと言う気もする。
ちなみに本書は1951年にギャラクシーに連載された。SFの黄金時代、1950年代の幕開けを告げる一作だったと思う。単行本は1953年。さらにちなみに、「虎よ、虎よ」は1956年になる。