☆双生児を読む

bqsfgame2009-04-13

解説にある通りプリーストを巡る邦訳事情は、すっかり様変わりしてしまった。魔法、奇術師、本書、そして国書刊行会の限りなき夏と、次から次へと大作がきちんと訳されて出てくる。良い時代になったものだ。
本書は、重厚な筆致で、バトルオブブリテン時期のイギリスの双生児を描いたオルタネートヒストリー作品だ。一人は反戦平和主義者として従軍を拒否し赤十字の職員として活躍した。もう一人は従軍し爆撃機パイロットとしてドイツ空襲に参加した。
二人はオリンピック選手として開戦直前のベルリンオリンピックで、ヒトラー総統やヘス副総統とあったことがあり、またドイツ語も堪能だった。このことから、ドイツ帝国が独ソ開戦に備えて実施した英国との単独講和アクションへと巻き込まれていく。
オルタネートヒストリーの分岐点としてバトルオブブリテンを用いるのは、ホーガンの「プロテウスオペレーション」があるが、あれはイギリスが降伏してしまうのを防いで現在の歴史を実現するためのオペレーションだった。そこでは軟弱なチェンバレンをどうやってチャーチルに挿げ替えるかが焦点となった。
此処ではチャーチルは好戦的な首相として講和の可能性を奪う問題人物として扱われる。その状況下で単独講和が実現されるのかどうかが物語の焦点となる。
実のところ、小説としての読み応えはオルタネートヒストリーの面白みとは全然関係なく、二人の双生児のそれぞれの人生が語られる部分で存分に発揮されている。率直に言って本書は完成度の高い小説として面白いのであって、特段、SFとして抜群に面白いという訳ではないようにも思う。その意味では、ミステリアスな謎解きに焦点のあった奇術師と比べてもずっとSFらしさは薄いような気がする。別にそれが悪いというのではなく、SFらしさの追求にプリーストは然程の関心を抱いていないような印象を受けるのである。