☆デーニッツと灰色狼[下]を読む

bqsfgame2012-11-24

1100ページ余りを読み終えました。
圧巻の大作ですが、潜水艦好きな人なら必読でしょう。
ナチスドイツの軍事上層部にあって、デーニッツは数少ない尊敬すべき人物だったと言う評を散見しますが、なるほどと思わされます。
本書はデーニッツの参謀が書いたものですし、とかく戦争に勝った側がドイツを悪役に仕立てる記述を頻繁にするのに対抗する意図もあるでしょう。そうした意図からデーニッツの良いところばかりを積極的に書いていると言うことはあるに違いありません。そこは割り引いて読む必要があるかとは思います。しかし、それにしても圧倒的な記述で感銘深いことは間違いありません。
上巻ではデーニッツはリソースマネージメント戦の本質を看破しました。
しかし、下巻では戦況の悪化と共に異なる側面が浮上します。
1:探知技術の技術開発競争で大きく後手に回ったことのツケを払うことになる。
2:空襲下で工業が破壊される中で戦争を継続する兵力の生産に苦悩することになる。
3:末期に至って上層部の人事の混乱に巻き込まれる。
と言った諸点です。
3については、ついに水上艦艇の無能ぶりに怒ったヒトラーが水上艦廃棄命令を出します。これに対して海軍総司令官であるレーダーは辞表を出してしまうのです。
レーダーは後継者を推薦するように言われ、この時に推薦した一人がデーニッツでした。もう一人が実績のあまりないカールス提督でした。カールスを推薦したのは水上艦艇にこだわるレーダーの最後の抵抗だったのでしょう。
ヒトラーデーニッツを選択し、デーニッツがついに海軍全体を掌握する立場になります。
これと同じことはさらに後にも起こり、ヒトラーが自殺する直前にはゲーリングが反逆者として除名され、結局ヒトラーは後継臨時大統領になんとデーニッツを指名します。
デーニッツは言っては何ですが潜水艦のスペシャリストです。しかし、彼は常に与えられた立場でのベストを尽くし続けます。
結果として最終章ではニュールンベルグ裁判で裁かれることになりました。
しかし、その判決は当該裁判の中にあっては適切に下され、デーニッツは通商破壊戦では無罪を勝ち取り、全体としてもナチスドイツ軍部の総帥としては異例に軽い禁錮10年となりました。
デーニッツは釈放後に回顧録を完成し、1980年に自宅で亡くなりました。