○鼻行類を読む

bqsfgame2013-09-01

世に「三大なんとか」と言うのは数多いが、「三大生物学奇書」なるものがあって、一つは以前に読んだ「アフターマン」で、残りの内の一つが本書だそうだ。
南太平洋の生物学的に孤立したハイアイアイ諸島で独自の発達を遂げた鼻で移動したり行動したりする動物類の研究論文である。
ハイアイアイ諸島には、他には海鳥が多少いる程度で、生物学的なポジションの全てを、この謎の鼻行類が埋めている。プラナリアに相当する退化した小動物から、虫食性、肉食性の大型の動物まで千差万別である。鼻の使い方も、擬足だったり、歩行脚だったり、触手だったり、擬態だったり、発声器官だったり。
奇怪な動物が次々に出てくると言うのは想像の通りだが、エンターテイメント性では「アフターマン」に大きく見劣りする。その最大の理由は、本書の狙いが動物学論文の偽書として徹底されているからである。特に、新発見の動物群を分類することに主眼が置かれていて、その上で形態、生態、解剖学的所見、発生学的所見などの様々な視点で色々な学者が異なる分類を提唱していると言う設定が凝っている。空想の物だから勝手に整理してクリアにしてしまえるものを、わざわざ本当の研究書のように論争の種を残して置いたり、今後の研究に委ねたりして偽書としての姿を徹底している。
論文調なのでリーダビリティはどうしても下がるし、白黒の挿絵も学術的所見の説明図としてもっともらしいことを目指しているので「見せる」要素には重きを置いていない。奇書と言う点では「アフターマン」より尖っている。
偽書としてのこだわりに重きを置いた本書を読むと、ふと山田正紀の「超・博物誌」を思い出した。あれもエンターテイメント性は物足りなかったが、思えば偽書としての狙いが強かったのかも知れない。本書の後に読み直すと、また評価が違ってくるのかもしれないと思った。