本作は、ロビンスンの良さと悪さが両方とも典型的に出ていると思いました。良い部分は、未来社会を丁寧に構築している所です。太陽系内の航行機関は、小惑星の内部を刳り抜いて気圧を掛けて自転させたテラリウムで行います。高速ではないので、まるで帆船で航海していたルネサンス期の地球のようです。
水星は自転と公転の周期が近く、同じ面を長期間太陽に向けているので、水星の植民都市は適温の夜を追って軌道を自走しています。
地球は環境破壊で激変しており、そこで絶滅した動植物の多くは上記のテラリウムに保管されています。
こうした設定は良く考えられており、本作ではメインストーリーの間に挿入された学術資料の抜粋として要領よく説明されています。
ここがロビンスンの魅力です。
問題なのは、人物面です。
主人公は、太陽系屈指の大物の孫娘です。孫娘と言っても、長命化処理で130才を越えています。この長命化処理の中には、雌雄モザイク処理が含まれており、主人公は男性とも女性とも言えません。
と言うことで、正直に言って全然主人公に感情移入できないのですね。この状態で物語は意外なことにラブストーリーになっているのですが、まぁ全然共感できません。ジョン・ヴァーリイのラブストーリーも感情移入しにくいですが、それでも異質な部分が未来世界の異質さの表現なのだと納得できる部分がありました。ロビンスンのは、異質さが多方面に及んでいて、感情移入がさらに難しい気がします。
そこが800ページの大作を読む上で、なかなか辛い部分と言う気がしました。
本作をキッカケに「ブルーマース」の訳出をと言うのは、筆者も同感です。
その一方で、本作を読むと改めてロビンスンの取っ付きの悪さがクローズアップされないかと言う不安も少し。