☆凍りのくじらを読む

bqsfgame2015-02-14

 「鍵のない夢を見る」で直木賞を取った辻村深月の少し前の作品。
 辻村深月は、デビューがメフィスト賞と言うこともあって、以前から一度読んでみたいと思っていた。図書館で検索したら直木賞受賞作は貸出中だったので、急遽、各章の章題にドラえもんの道具の名前が付いていると言う本作を借りてきた。
 550ページの大作だが、リーダビリティは非常に高い。端的に言ってしまえば、ストーカー被害者の女性の話し。ストーカーについて、「被害者にも原因がある」と言う意見を時に聞くが、あまり真実ではないと思っている。しかし、こと本作の主人公に関しては、「被害者の原因の方が大きい」と言って良い。被害者の元彼は、彼女以外に友達がなく、プライドが高いが自己責任能力が低い。彼女はそのことを十二分に判っていながら、だらだらと付き合い、別れた後も彼を甘やかし続けて彼が腐敗するのを促進し、最終的な事件にまで辿り着いてしまう。途中で、彼女の友人は主人公に警告するし、そればかりか彼女の周囲で巻き込まれ被害も発生し始める。それなのに彼女は最後まで進んでしまう。
 まぁ、主人公が忠告に従って早期に元彼を見捨てて、無事に何も起きませんでした‥では、小説にならないので仕方がないのではあるが。それにしても読んでいて主人公に共感できないばかりか、頭が良いにも関わらず危機回避できない優柔さにいらいらさせられることは確かだ。その意味で本作は、主人公のSF遊びで言えば「少し・不愉快」である。
 それにも関わらず「☆」を付けたのは、最後まで読むと予定調和が完成するからである。調和するので、これから読む人に薦められる作品になっているのだが、なぜ薦められるのかは読んでのお楽しみと言う他はない。